すばるを救え-ハワイ観測所メインシャッター改修

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すばるを救え-ハワイ観測所メインシャッター改修・下/過酷な条件、難関も乗り切る  [2020年11月10日]

竣工後、記念写真に納まる関係者。今後も継続的なメンテナンスに取り組む

ガイドローラー改修は狭い場所での作業の連続だった。

宇宙の謎解く研究支える

 鼻に酸素チューブを付けた男たちが、人一人がようやく入れるスペースに潜り込み、時には体をくの字に曲げながらこつこつハンマーをたたく-。すばる望遠鏡を備えるハワイ観測所のメインシャッター改修工事は、一見地味に見える既存ガイドローラーの取り外し作業が実は一番の難関だった。ガイドローラーはシャッター下部に位置し動きを補助する。長年メンテナンスをしていないため固着してなかなか外れない。標高4200メートルの作業現場は酸素が薄く、ハンマーを振り上げるとすぐに息が上がった。

 工事は6、7人の作業員で行った。まず、すばる望遠鏡が置かれている観測階から6メートルの高さにある点検ハッチへのアクセス方法を改良するところから着手。点検ハッチは厚さが2メートルあるメインシャッター内部に通じている。新たに歩廊とはしごを設置した。従来は高所作業車でメンテナンス担当者を一人一人、点検ハッチまで運んでいた。

 シャッター内部の歩廊も改造した。既設の床はあったが、人一人がやっと歩けるくらい狭かった。ガイドローラーの交換に必要な作業スペースを確保するため、既設の床をグラインダーで切除し、1段下の床面に付け足した。「今までは床板に座っても頭上に邪魔な物があった。なんとか座りながらでも作業ができるようになった」(横河システム建築・中井洋平)。2019年7月5日に歩廊と昇降設備の設置が完了する。

 続いて既存ガイドローラーの取り外し作業に着手。新たな歩廊は取り付けたが、場所によっては動きが制限された。一連の工程の中で中井はこの作業が最も大変だったと振り返る。「さびがあってすぐに取り外せない車輪もあった。酸素も薄く、ちょっと動いただけでクラクラした」。

 いよいよ新たなローラーを取り付けようとしたその日に、思わぬ事態が発生する。先住民らによるデモで山頂に続く道が封鎖され、車両が通行できなくなった。新たな観測所の建設計画があり、マウナ・ケア山を聖地と考える先住民は建設に反対していた。改修工事は新観測所と無関係だったが、山頂に行かなければ作業はできない。中井らは7月中旬にいったん帰国した。

 8月中旬になるとようやく車両の通行が可能になり、急いでハワイに飛んだ。既に工事開始から約2カ月が経過していた。観測所には工事に合わせ天体観測を9月初旬まで見合わせるように要請していた。「逆に言うと観測を止めている期間で全ての工事を終わらせないといけなかった」(中井)。時には遅くまで作業し、最終検査を経て9月18日になんとか工事を終えた。

 新たな観測所が稼働を始めるまで、今の観測設備は延命が求められている。工事を統括した横河システム建築の村岡真は「定期的な点検や修繕に携わり、安定的な天文観測の一助になれれば」と話す。人類の夢とも言える宇宙の謎を解明する研究を建設技術者として陰ながら支えることができた。工事を無事に終えマウナ・ケア山の山頂を後にした時、心は困難な仕事をやりきった充実感で満たされていた。(敬称略、おわり)(編集部・若松宏史)

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