JAPICの緊急提言から・2/科学的予測でリスク評価/ハザードマップ第2世代化を

2021年3月18日 トップニュース

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 東日本大震災発災から10年になる。この間、いわゆる「想定外」に関する多くの議論が行われ、気候変動に伴う近年の水害でも「経験したことのない」「考えてもみなかった」と言われる災害が続いている。こうした災害に対応するには、最大規模の外力による災害も含め、災害時の被災形態や程度に関する科学的なリスク評価を行い、対応が困難な事象などをあらかじめ知った上で、対策や訓練を進めていくことが重要になる。

 事前の災害リスクの評価に基づいた対策の必要性は過去にも指摘されていたが、これまではその対応は限られていた。特に激甚な水害対策では流域や地域で社会・経済活動を担っている個人、地域、企業、行政等の多様な主体が自らの災害リスクを知り危機感を共有化した上で、連携・協力体制や流域全体を対象とした洪水マネジメントをする仕組みが必要となるが、それが不十分だったからだ。

 例えば水害リスクを示す水害ハザードマップは、浸水深などのハザードの評価を網羅的、平均的にまとめている。ただ、その地域にあるインフラ施設の重要度や人口密度、地盤状況などさまざまな条件、特性に応じたリスク評価は示されていない。2012年の社会資本整備審議会の提言「安全を持続的に確保するための今後の河川管理のあり方について(中間とりまとめ)」では「リスクが共有化でき住民の避難や地域の防災等に一層効果的に使えるものにしていく、いわばハザードマップの第2世代化ともいえる取り組みが求められる」と指摘。水害ハザード情報をリスク情報に変換して広く公開し、社会的に共有化した対策の実施を提起している。

 こうしたリスク情報を基に、地域の社会・経済活動に関わる情報、地域の治水特性を示す標高・地形等の地理空間情報、治水施設や都市施設等の立地・運用情報、避難等に関わる防災情報などをオーバーレイした、いわゆるプラットフォームとしての「治水版DX(デジタルトランスフォーメーション)」を構築できれば、総力戦に必要な社会的総合リスク情報基盤となる。

 加えて、気候変動により降雨現象がさらに厳しくなるとの科学的予測に対応した地域の水害リスク評価が求められる。これまでの水害リスクの評価は、既往の降雨の観測値を基にした統計的な評価により組み立てられてきたが、気候変動を対象に水害リスク評価を行うためには、これまでに観測や経験したことのない降雨の空間分布・時間分布とその規模や変化を新たに予測評価する必要がある。これにより、今後予測される降雨現象のもとで、脆弱(ぜいじゃく)性が強まる地域を明らかにすることができ、その被害の形態や程度へのリスク評価を行えば想定外を減らす取り組みにつながる。

 治水の歴史は、絶え間ない新たな対策の展開や強化の繰り返しであり、そのための研究や技術開発による挑戦が重要な役割を果たしてきた。その際、新たな技術はこれに対応する新たな社会的な基準やルール等と一体となって初めて社会に実装することが可能となる。同様に、自助・共助・公助による総力戦を展開し、流域全体を対象とした洪水マネジメントを構築していくためにも、新たな技術の導入は不可欠だ。

 気候変動でますます厳しくなっていく気象・水象に備えて、社会からの期待と信頼に応えていくことを通じて、今と未来を見据えた水害対策のさらなる強化に取り組んでいくことが何よりも肝要だ。