JAPICの緊急提言から・8/治水は国家百年の大計

2021年6月29日 トップニュース

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 「気候変動監視レポート2019(気象庁)」によれば、1950年代以降から今日まで、桜の開花は1週間早くなり、カエデの紅葉は2週間以上遅くなっている。そのためか春分・秋分や立夏・立秋など、暦と生活を結びつける二十四節気による季節感の微妙なずれも指摘されている。地球規模的な温暖化を背景として、各季節が全体的に暖かくなっている証拠であろう。

 気候の変化はわれわれがこれまで経験をしたことない形で現れることもある。2016年8月、1週間に三つの台風が今までなかったコースをとり直接北海道を襲い、逆走台風10号が東北の太平洋側に上陸し、甚大な被害をもたらした。いずれも観測史上初めてのことだ。局地的で強烈な雨の降り方や、予想もできないような台風の動きをみても、気象現象が新たな次元に入っていることは間違いない。

 治水対策はこれまで、過去に発生した水害事例のデータを基に対策が練られてきた。だが、異常気象の前では過去のデータによる対策では通じない。さらに言えば、異常気象はすでに異常ではなく、もはや恒常的になっている可能性もある。治水は国家百年の大計と言われる。長期的な展望を持って対策を講じなければならないが、その一方で昨今の激甚化した風水害被害の状況を踏まえると、早急に手を打つべきプロジェクトもある。その行動を尻込みしていては気象変動から国民を守ることはできない。特に洪水のピークを貯留することが効果的であるダムや遊水地などの整備は早期の判断が求められる。密集している社会・経済活動が行われている氾濫源を流れる河川では、多目的・多機能化した高規格堤防の整備を促進し、安心して快適に暮らせる街づくりを目指すことも必要になるだろう。

 国土交通省は国や都道府県、市町村、企業、住民など流域全員が協働して、流域全体で治水対策を実施する「流域治水」の方針を打ち出した。その実効性を担保する流域治水関連法案も今国会に提出され審議中だ。河川整備や流域での貯留施設等の整備はもとより、浸水リスクを考慮した土地利用規制・誘導等を組み合わせる総力を結集した水災害対策がいよいよ始まる。

 今回のJAPIC緊急提言は、風水害対策を官だけに任せるのではなく、産学民でも協働できる方策を検討した。安全・安心を国民と社会に与え、強靱な国土・地域づくりを実現する嚆矢(こうし)になればという思いがあったからだ。大災害が起きるたびに「想定外」「振古未曽有」「天変地異」などの言葉が社会に流布されるが、災害や災禍の本質は「既知」なることが風化すること、「未知」なることに遭遇することだ。それに対応するには科学的に災害リスクを検証し、国民一人一人が「わがこと」として災害対策に取り組まなければならない。

 地球温暖化を抑制するため、政府は「2050年の二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)」を表明した。民間レベルではESG(環境・社会・統治)投資やSDGs(持続可能な開発目標)などの取り組みが進む。こうした温暖化対策と歩調を合わせながら「水害列島」である日本の治水対策を今後考えていかなければならない。今こそ産学官民が知恵を出し合う時だ。終わり

 連載はJAPIC緊急提言WGの関克己(WG長、河川財団)、越智繁雄(WG長代理、大成建設)、安斉孝仁(JAPIC顧問)、林敦(みずほ銀行)、飛田茂実(不動産協会〈住友不動産〉)と、本紙・坂川博志が執筆しました。敬称略。