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2021提言特集/DXの実像/デジタル変革の道筋  [2021年10月15日24面]

鍋島憲司氏

 ◇マッキンゼー・アンド・カンパニー・鍋島憲司パートナーに聞く
 日本の国際競争力低下が叫ばれて久しい。日本の存在感を高めるためには生産性向上が不可欠であり、成否の鍵を握るのがDXになるとみられている。国民の暮らしや経済活動を支える社会基盤を担う建設業界も同様だ。デジタル変革を進めていく道筋をどう考えていくべきなのか。大手コンサルタントのマッキンゼー・アンド・カンパニーの東京オフィスでパートナーを務める鍋島憲司氏に聞いた。
 □投資効果大きな分野から推進を□
 日本のデジタルの成熟度や国際競争力は必ずしも高くない。高齢化が進む中で、DXによるパフォーマンス向上が不可欠だ。労働人口の先細りが目に見えている建設業も避けて通れない。国土交通省が主導して、建設現場の生産性向上策i-Constructionが進められており、建設テックも台頭し始めている。デジタルの波がようやく建設分野にも訪れてきており、素地は出来上がっている。
 ただ、現状では建設業でDXが進んでいると言えない。当社が扱う約30の産業セクターで見ると、建設業のデジタル習熟度は下から2番目くらいだ。現場のITリテラシーは思った以上に低い。背景には、毎日違う作業をやっていることや、重層構造という建設業ならではの難しさがある。下請企業の目線で見ると「このゼネコンのデジタルツールを覚えても次の現場で使えない」となる。同じ会社でも現場によって全然違うことがあるのもゼネコンの特徴だ。企業内ですら横串を差すのが非常に難しい。
 企業での大規模変革はなかなか難しく、当社の調査によると、全産業での成功率は3割程度にとどまる。デジタル変革はさらに難しく成功率は15%くらいだ。「絶対に推進する」という強い意志をトップが持ち、組織が一枚岩化しなければDXは起こらない。
 デジタルツールを導入したら、どれだけパフォーマンス向上に効果があるのかや、人材のリスキリング(再教育)を含めて投資がどこまでかかるのかを見極めて、ROI(投資利益率)の大きい領域を優先することが極めて大事だ。DXは、企業のパフォーマンスを上げる手段にすぎない。ビジネスインパクトが大きいところに注目し、そこから取り組むことが非常に大事だ。
 なるべく早く小さな成功を実現して、「デジタルを使うと結構すごいことが起きる」と組織全体に認識してもらわなければドライブがかからない。日本のデジタル化がパイロット段階でとどまるのが多いのは、きちんとビジネスインパクトを考えていないからだ。
 BIM導入などが進んでいるが、企業によってはドキュメント管理や顧客管理などバックオフィス的な所から始まるかもしれない。インパクトを考えて、戦略的にプランニングしてほしい。ROIや実現性、困難さなどを並べてみると、優先順位の高い打ち手がおのずとみえてくるはずだ。
 ツールを導入して終わりではない。オペレーションが抜本的に変わり、企業の大規模な変革が起こらないといけない。マインドセットやカルチャーも変わっていかないといけない。そのためのロードマップを描き、どういう順番でやって、どう皆のモチベーションを維持するかも極めて重要だ。
 デジタル先進国と比べて、日本は人材が十分ではない。日本のデジタル人材は、システムインテグレーターなど外部が7割くらいで、3割が企業のインハウスにいる。諸外国は逆で、インハウスにデジタルが分かる人材が多い。
 デジタル人材の採用は当然やらないといけないが、内部の人間にデジタルスキルを身に付けさせる「リスキリング」と両輪で考えないと駄目だ。外部の専門家だけに任せていてもデジタル変革は起きない。建設の仕事が分かっていてなおかつデジタルが分かる人が間に立たないと、本当にインパクトのあるデジタルソリューションは作れない。
 □多様性広げるチャンスに□
 ゼネコンは売り上げのほとんどが建設事業だ。デジタルを活用することによって、建設そのものから周辺の領域に事業の拡大展開ができる可能性がある。建物のアフターメンテナンスを含めて近接領域で新しいビジネス機会が得られるのではないか。基礎研究で築いてきた技術や扱っているデータなどに、ゼネコン自身が気付いていない隠れたアセットがあると思う。
 スマートシティーや新しい都市づくりへの貢献などを考える企業とそうではない企業との間に差が出てくるだろう。台頭するデジタルの力を活用して本業以外の周辺領域や新規事業に進出し、新しい価値を社会に提供するよう検討していくべきだ。
 乱暴な言い方をすれば、日本のゼネコンはどこも同じようなプロファイル、技術レベル、収益性となっている。これはかなり特殊だ。デジタル活用により、ほかに無いサービスを提供したり、建設したビルの不動産価値を高めたりと差別化が始まるのだろう。業界全体のダイバーシティー(多様性)が増して、特徴あるプレーヤーが増えてくるのではないか。そのための推進力とマネジメント力が問われる。
 発注者が変革を求められる部分もある。建設テック企業が隆盛化し、オーナーに向けたサービスが増えており、変更管理や工期順守などへの意識が高まっている。デジタルを使ってゼネコンと発注者のウィン・ウィンの関係が構築できるだろう。
 グローバルで見ても、建設現場全体のDX事例はあまり聞いたことがない。非デジタルとデジタルをうまく組み合わせることで、新しい建設の在り方を発信することは大きなチャレンジとなる。日本の建設業は東南アジアを中心に発信力がある。日本から新しい形の業界に変えることができれば、相当大きな事になる。難しさはあるが、大きなチャンスがある。当社としても成功へサポートしたい。
 (なべしま・けんじ)2000年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了、04年英Architectural Association School of Architecture修了、06年東京大学生産技術研究所助手、09年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社、17年パートナー。東京オフィスでIoT(モノのインターネット)推進の拠点となる「IoTセンター」の空間の設計にも従事した。徳島県出身、46歳。
 《表紙デザイン》
 マッキンゼー・アンド・カンパニー東京オフィス(東京・六本木)の「IoTセンター」に設置されたガラス製パーティションからの眺望。凹凸の表面には大小の「0」「1」をイメージしたデザインが施されている

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