風をつかむ-市場展望・4/低コスト化など官民で競争力強化

2021年7月30日 トップニュース

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 洋上風力は政府が目指す再生可能エネルギー大量導入の「切り札」と期待する一方、「コスト改善の余地がある」(梶山弘志経済産業相)など課題が残る。実証事業に長年取り組んできた新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、着床式や浮体式の損益分岐点など事業性を見定めながら関連技術の開発・実用化を進めている。
 NEDOによると、日本周辺海域での着床式の適地2・1万平方キロ(水深50メートル未満)に対し、浮体式は9・8万平方キロ(同50メートル以上200メートル未満)と5倍近くに上る。着床式に続く浮体式は水深100メートル未満の海域を当面の事業エリア(4・2万平方キロ)とし、低コストで設置可能な次世代洋上風力発電システムの開発に力を入れる。
 先行して事業化が進む着床式でも安価な施工技術の開発を推進。基礎形式のうち欧州などで一般的なモノパイルは、海底地盤の堆積層で一定程度の厚さが必要になる。堆積層が薄い地盤でも低コストで施工可能なサクションバケット基礎を現地条件に適合させる実証研究に取り組んでいる。
 サクションバケット基礎の高度化に当たり、NEDO新エネルギー部風力・海洋グループの佐々木淳統括研究員は「(トータルコストで有利な)風車の大型化に対応するための応用展開も視野に入れている」と明かす。基礎柱が1本のモノバケットは7~8メガワットの風車が導入の目安。柱を増やせば10メガワット以上にも対応可能という。
 関連技術の開発・実用化と合わせ、発電設備の整備に不可欠な基地港湾などのインフラや送電網の整備も欠かせない。経産省幹部は「風力の地域偏在性を解消するための送電網整備が不可欠」と強調。適地と需要地をつなぐ海底ケーブルなど送電網全体のマスタープランを2022年度にも策定し、事業の障害にならないよう計画的に整備する。
 現在、指定済みの基地港湾は秋田港(秋田市)などの4カ所。最大4500万キロワットの案件形成を目指す40年には12カ所程度必要になるとの試算もある。国土交通省は追加指定を視野に入れ、基地港湾に必要な機能・規模を議論。来年2月にも設計方針などを示す。
 事業性の確保では、運営段階のコストマネジメントも重要となる。「故障リスクを抑え、風車の回転をいかに止めないかが、発電コスト低減のポイント」と佐々木氏。NEDOは人工知能(AI)を活用した故障の予測技術以外に、故障してもリアルタイムで発電施設の状況を把握し、効率的にメンテナンスできる技術を開発している。
 発電施設の設置作業などを担う建設会社に対し、「橋梁分野の技術や杭打ち・掘削などこれまで培った日本の高度な土木技術が応用できる」と佐々木氏。施工技術や部材設備の開発・製造など、官民一体で日本の洋上風力産業の競争力を高めることが、国内だけでなくアジア市場進出の鍵になる。