BIMの課題と可能性・18/樋口一希/小規模組織の生き残り戦略・2

2014年5月29日 トップニュース

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  香月真大建築設計事務所(東京都杉並区)が小さなBIM=住宅専用のCADシステム「Architrend Z」を用いて行っている建売住宅の設計における標準化手法の実際を報告する。


□顧客ニーズを集約したデータベースを構築 小さなBIMの援用で標準化手法を実現□

  住宅メーカーの多くは1980年代の半ばには自社開発の専用CADシステムの運用を開始した。スタイラスペンで間取りを描くと画面に平面図が現れ、3次元パースも表示される。データベースとの連動で設計と共に必要部材も特定され、概算見積もりもでき、建築現場に何台のトラックで資材を運び込むのかの計画立案まで行っていた。

  データベースの中には、住宅メーカーが集約した顧客ニーズが蓄積されており、標準でありながら、注文住宅にも近い「商品としての住宅」を実現する。香月氏も同様に小さなBIM=Architrend Zを用いて、データベースに裏打ちされた標準化手法を実現している。


□元請からの設計受託だけにとどまらず現場にこだわり買い主(施主)からも意見を直接聴取□

  親族経営の不動産会社で2年間、その後、年間30棟あまりを手がける不動産会社の外部協力事務所として設計・監理に従事する中で香月氏は、首都圏周辺の中堅サラリーマン層などの建売住宅へのニーズを徹底的に突き詰めていった。

  建売住宅とはいえ、買い主(施主)はわが家への夢を不動産会社に託す。切実なニーズを探り出し、建売住宅をいかにして本来は一品生産であるべき注文住宅に近づけるのか、設計者として何ができるのかを香月氏は模索し続けている。

  「最終的な設備仕様や外装を決めるため不動産業者と共にお客さまの現場訪問にも立ち会っている。クライアントにとっては購入したいと思える住宅が『良い住宅』であり、実際に購入した住宅を道標にしてお客さまがどんなものを求めているかを反芻(はんすう)している」(香月真大・香月真大建築設計事務所代表)


□各種図面の作成時間が激減した背景にはシステムの能力+顧客ニーズの明確化が寄与□

  住宅設計+図面生成に特化したArchitrend Zを使用すれば、確認申請から施工に至る各種図面の作成時間を自動的に3分の1に激減できるわけではない。システムの能力を最大限に引き出すスキルと共に、何よりも「商品としての住宅」実現のための顧客ニーズのデータベースを標準化設計へと結びつけるノウハウが必要だ。

  Architrend Z内に建売住宅への顧客ニーズとして蓄積されたベータベースは、標準化された各種仕様や設計図面パターンと共に今も進化し続けている。香月氏は元請からの信頼も勝ち取り、事務所設立後3年目にもかかわらず、「業としての建築」を成立させつつある。

  今は著名の建築家も独立当初は住宅メーカーの下請や建売住宅の設計を行っていた。香月氏の営業努力は実を結び、現在、施主から直接の依頼を受け、注文住宅の設計を行っている。

  次回は、これからの香月真大建築設計事務所が何を目指しているのかについて報告する。

  〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)