BIMの課題と可能性・39/樋口一希/泉俊哉氏の「Small BIM」・2

2014年10月30日 トップニュース

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 「Small BIM」を追求しているサムコンセプトデザイン一級建築士事務所の泉俊哉氏。BIMを用いて建物=保育施設が本来、体現すべき本質的な価値を設計の側からどのように追求したのか報告する。


 □即座に建物モデルを自在に動かせることで可能となった「3次元で考え、デザインする」□


 CPUの高速化、ストレージ・メモリの大容量化などによって、BIMによる建物の3次元モデルはテクスチャーを貼り付けたままでリアルタイムで稼働する。「3次元で考え、デザインできる」と実感できたのは、ストレスなく3次元モデルを自在に動かせるようになった最近のことだ。

 設計者にとっては3次元モデル作成時の『カタチ』の検討と共に、3次元モデルを操作し、即座に『空間』シミュレーションができるメリットは大きい。施工段階を迎えた700平方メートルほどの保育施設の3次元モデルがテクスチャー付きで画面上にある。マウス操作で空間内部を動き回ってみる。

 「ウォークスルーしながら検討する段階で設計者は『ラフに、こんな感じ』で空間を捉えている。壁などの遮蔽物による見えがかりを感じながら空間の広がりを把握し、視線の位置を設定・変更しながら空間の高さ方向を感じとっていく。その際に、BIMによって付与されている精緻な数値情報=各所の寸法を掴んでいるので、3次元モデル変更後の図面表現も類推できる。この繰り返しが実務として『3次元で考え、デザインする』ことだ」(泉俊哉氏)


 □園児を管理対象とする従来の保育のあり方を園児主体の生活空間の創出に転換するために□


 少子高齢化が進む中、社会にとって幼少の子どもたちは大切なたからであり、保育の質をいかに高めるかは喫緊の課題である。多子時代の保育では、園児たちを「管理対象」とする考え方が主流であった。発達の異なる子どもがいる中、一斉に同じ遊びをさせ、食事を取らせ、午睡に入る。「一斉保育」が管理面、安全面でも有効だと考えていたからだ。

 子どもたちを主体として考えてみる。食事の遅い子もいるし、絵本に熱中し、午睡に入りたくない子もいる。そうした彼らの思いを尊重しながら、集団的な規律も確保できる保育のあり方とは何か。直近に手がけた保育施設では「見守る保育」「異年齢保育」「コーナー保育」という手法を取り入れていた。

 「クライアントと協議を進める中で『保育施設を研究するのではなく、保育そのものの研究』を突き詰めないと、より良い建物はできないのではないかと内省しながら設計を進めた」(泉俊哉氏)


 □保育施設という建築でなく保育そのものの設計に至るまでBIMで突き詰めて体得したもの□


 その保育施設では子どもたちの「したい想い」を尊重している。多様な遊びのコーナーを用意し、満足するまで遊びこむ。眠くない子には静かに遊べる場を用意する。園児たちの自発的な思いを保障するために様々な空間を提供する。遊ぶ・食べる・寝る場を発達に合わせて子どもたちが移行できるように考えると、必然的に保育面積は通常の保育施設以上に必要となる。

 「既成の保育にとらわれない空間を提案する上でBIMでの検討は効果的だった。園児たちの活動、保育士たちの動線や視線を考慮した結果、広く連続した保育室の構成となった。BIMの機能を最大限に活かすことで、保育園という施設の設計だけではなく、保育そのものの設計にまで関与できたと考えている」(泉俊哉氏)。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)