BIMの課題と可能性・43/樋口一希/東芝エレベータのBIM運用・3

2014年11月27日 トップニュース

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 建築(建設)業では施工現場が唯一の生産の場であり、ビジネスの根幹をなす。エレベータ、エスカレータの現場設置をいかに円滑に進めるか。3次元のBIMモデルによる設計支援と合わせて、建設会社とのBIM施工連携について検証する。


 □手戻りなくダイレクトに施工精度向上に直結するBIMモデルによる3次元の干渉チェック□


 各階を貫くエレベータ設置の良否は建設の工程全体に影響を及ぼす。図にあるエレベータの機械室に置かれる巻き上げ機の設置事例。BIMモデルによるチェックでマシンビームとブレースが干渉しているのが視認できる。

 下階から上階に向けて施工していく工程の最後半、エレベータ設置の最終局面で、クレーンで運び上げられた巻き上げ機が納まらないでは済まされない。

 2次元図面で「見上げ」「見下げ」といっても梁や床の向こう側=違う階までは視認できない。断面(図)も任意の位置で切っていただけだ。2次元図面から情報を整理しイメージ化する。経験に基づいた判断能力が必要であり、意思疎通に問題があれば、手戻り作業が発生するだろう。

 BIMモデルによって3次元的に視認しながら関係者間で合意形成することで、鉄骨二次部材の精度を「プレ・ファブリケーション」で1分の1のリアルデータまで高めることが可能となった。後は現場でアセンブリ(組み立て)すればよい。


 □BIMモデル提供とアポイント機能の活用によって営業スタイルと顧客サポートの革新実現□


 BIM運用の進展と共に、社内組織の「見える化」が現実のものとなり、顧客サービスもBIMモデルの提供にとどまらず、『設備(装置)=エレベータ』という装置産業と建築(建設)業との連携・提携にまで進化している。BIM運用を本格化した背景には、ゼネコンのBIM担当者からの「エレベータ設置のBIM利用にチャレンジしよう」との提案と協働があった。

 BIM特別会員として専用サイトに入ると、アポイント機能が使え、昇降機設置に関する相談やBIMの連携ができる。設計や施工の支援はBIMモデルが主役だ。BIMは広く建築(建設)に関わる組織や人々を結びつける優れたメディアとなった。


 □設計施工時のBIMモデルは日々活動する建物への動的・継続的な援用へと進化し続ける□


 ラゾーナ川崎東芝ビル。会議室を退出すると照明が自動的に消される。さらに最上階のミーティングフロアでは、人感センサーが人の動きを把握、退出者情報としてエレベータの運行システムに連動、エレベータの最適な運行を設定する。

 人々は働き、生活し、それを支える建物も日々、生きている。BIMモデルの可能性をさらに大きく広げるのが、本事例にみるように、竣工後、活動を続けている建物への動的、連続的な展開だ。設計施工のBIM化、その後のFMへのBIMモデルの援用は、一面で建築(建設)業内部に静的、局面的に閉じている。

 多くの建物は、ネットワークが網の目のように張り巡らされ、各種センサーとCPUの集合体となり、お互いに通信している。設計施工段階で作成されたBIMモデルは、デジタルデータの優れた可用性、流通性によって、今後、建物の動的活動の援用へと進化していくに違いない。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)