BIMの課題と可能性・54/樋口一希/大林組のBIM運用と推進組織・2

2015年2月26日 トップニュース

文字サイズ

 大林組のBIM運用と合わせて活用が進む4300台のiPad。バックボーンとしての「スマートBIMクラウド」とPDセンターの役割を検証する。


 □iPad運用を支える存在として建物情報の統合+共有を可能とするスマートBIMクラウド□


 大林組が「15年度末でのBIM運用100%」を公にした背景には、スマートBIMクラウドの存在がある。スマートBIMクラウドは建物情報の統合と発注者、設計会社、施工会社、専門工事会社など関係組織間でのBIMを中心とした情報共有を実現するクラウド・コンピューティング環境。

 スマートBIMクラウドは、大規模クラウド環境の構築を担当したNEC、BIMソフト(ArchiCAD)ベンダーとして技術サポートしたグラフィソフトジャパンとのアライアンスで成立している。そのクラウド上でiPadは社内にとどまらず、発注者、設計会社、専門工事会社など外部組織との情報共有と建物の「見える化」に威力を発揮している。iPad導入は経営レベルの高度な決断に基づく。五月雨式な情報化投資は非効率的だとの判断により一気呵成にiPadの導入に踏み切り、現在は約4300台が稼働している。


 □モバイル環境でBIMモデルも閲覧できる『BIMx Docs』の利用により工程全般で活躍するiPad□


 グラフィソフトジャパンのBIMモデルビュワー「BIMx Docs」。BIMソフトで構築された建物モデルをiPad単独で閲覧できる。設計者だけでなく営業担当者も、クラウド環境下でサーバーにアクセスし、プレゼンテーションにiPadを活用している。iPad導入によって、BIM運用は工程の最上流に位置する営業段階にも射程を広げ、発注者への「見える化」効果を高めていく方針である。

 クラウド環境を専門工事会社にも開いたことで、BIMによる情報連携は格段に進化した。事前に合意したLOD(Level of Detail)に基づき専門工事会社は建物モデルを参照、取得し、各種設備機器などとの整合性を確保、施工図作成まで援用する。対面での打ち合わせ時にはiPadで建物モデルを視認しながら協議できる。

 施工現場でもiPadは活躍している。大量の図面(データ)を持ち歩かず、必要に応じてサーバーにアクセスしてiPadに取得、確認できる。現場に精通したベテラン技術者も、3次元モデルによる「見える化」には驚きの声を上げ、高度な視認性の確保は施工精度の向上にダイレクトに貢献している。


 □各種アプリケーション開発を通してiPadの利用領域を広げ施工現場での作業高度化を実現□


 施工現場でのiPadの具体的な利用事例。iPadには「BIMx Docs」だけでなく各種施工検査システムがあらかじめインストールされ、必要に応じたアプリもインストールできる。

 アプリケーション開発は、携帯型端末=PDA上で稼働していた施工管理システム「GLYPHSHOT」のiPadへの移行から着手した。同システムは集合住宅における配筋検査の効率化を目的に開発されたもの。以下の利用シーンに対応する各種アプリケーションの開発も行っている。

 ▽現場作業員との情報共有:朝礼、新規入場者教育などでiPadを用いて正確、かつ効果的な指示を行う。

 ▽現場巡視・検査:施工図・施工関連資料・技術資料の閲覧、各種検査、工事写真への黒板転写。

 ▽各種打ち合わせ:ビテオ通話=仕上げ確認、設備機器の設置確認、所内+業者間+設計打ち合わせなど施工現場と工事事務所間の連絡。

 ▽ペーパーレス会議:サーバー接続であらかじめ作成しておいた資料参照。

 ▽記事録の作成支援:手書き文字入力と録音機能の連動、音声文字変換機能で議事録作成手間の削減。

 iPadごとにプライベート認証局から発行の電子証明書が導入されており、証明書未導入のiPadからはアクセスできないなど万全のセキュリティ対策も講じられている。

 施工現場のICT全般を司るグローバルICT推進室と共に、PDセンターではBIMの活用ツールとしてのiPadの有用性に着目し、開発部門とのコラボを実施している。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)