BIMの課題と可能性・57/樋口一希/深化する施工図事務所の職能・2

2015年3月19日 トップニュース

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 施工図事務所でのBIM運用による業務のデジタル化が施工現場の現業にどのような革新を与えているのかを報告する。


 □誰が、いつ、どこで施工図を描くのかの課題解消に続きBIMで具体化した更なる業務革新□


 取材時、年度末を控えていたこともあり、アートヴィレッヂでは22名の社員のうち、20名がゼネコン各社の施工現場に出向いていた。現場でもBIMソフトを運用することで、施工図を「誰が」「いつ」「どこで」描くのかの課題は概ね解消し、さらに建物モデルのデジタル化で現場工程全般に及ぶ業務革新が具体化している。

 労働安全衛生法では、事業者に対して第88条規定=「一定の規模・種類の建設工事を開始する場合は事前にその計画内容を所轄労働基準監督署長に届け出ること」が義務付けられている。計画内容とは、主に仮設工事の計画についてであり、届出種類は、〈1〉〔型枠支保工〕〔架設通路〕〔足場〕・〈2〉〔クレーン〕・〈3〉〔掘削〕などに及ぶ。BIM運用での建物モデルのデジタル化と密接に関連するのは、〈1〉について例示すると、『組立期間30日前までに届出』との期限にかかわる規定だ。BIM運用によるフロントローディング=時間圧縮が最も効果を発揮する業務分野だ。


 □施工図事務所特有のフロントローディングで実現する現場に則した行政対応と積算支援□


 例示〈1〉の『組立期間30日前までに届出』するための準備に際しても施工図事務所に負う処が大きい。仮設工事の計画は、敷地形状・地盤から本体工事の工法に至るまで、建物固有の与条件によって個々に異なるため、届出以前=施工図事務所が現場に入る以前に対象建物の施工図(モデル)を前倒し(フロントローディング)準備する場合もある。行政対応を迅速に前倒しするためにも、施工図事務所はBIM運用を通して現場の業務革新に寄与している。

 連載33・34「概算見積もりソフトとBIM連携」で積算業務の課題について報告した。建物の企画・計画段階では積算に必要な建物情報は不十分だし、設計図面からは参照できない仮設など『不足データ』をいかに補うのかについてだ。施工図(モデル)を前倒し(フロントローディング)作成することで、特定の現場に則した正確な積算業務が可能となり、資材・人員・時間などを包含する現場工程全般のマネジメントの質的向上に寄与する。


 □ゼネコンとの関係変化の想定+中小現場への支援能力の強化で導入した電子会議システム□


 打ち合わせスペースに設置されたプロジェクターとスクリーン。BIMソフトによるチームワーク機能と共に、スカイプと組み合わせた電子会議システムを導入、自社専用のネットワーク環境を構築している。

 大規模な施工現場には所員が出向き、施工図(モデル)作成から工事支援までを行うが、中小規模の現場対応では電子会議システムが威力を発揮する。図面に修正のための赤字やコメントを入れ、パソコンにPDFファイル形式で読み込み、BIMによる施工図(モデル)加工、修正に反映する。一連の作業を局面に応じてキャプチャーすれば工事記録にも援用できる。テスト運用は終わり、セキュリティ確保に引き続き、現場での運用を待つ段階だ。

 「電子会議システム導入は、BIMとクラウドの普及とともにゼネコンとの関係が変化すると考えたからだ。ゼネコンはBIM運用によって施工図事務所と協働で行ってきた生産設計の能力を向上させ、コスト削減も視野に入れているに違いない。電子会議システム導入は、現場常駐型業務の縮小への対策であり、中小規模の現場対応に向けた新たな市場開拓策でもある」(アートヴィレッヂ代表取締役・原行雄氏)。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)