BIMの課題と可能性・64/樋口一希/藤岡郁建築設計事務所のBIM運用・3

2015年5月7日 トップニュース

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 小規模な建築設計事務所が『仕事を創るBIM』を成立させるために、協力事務所や建設会社との間でどのような協働態勢を構築しているのかを報告する。


 □設計+モデリングと作図の分業体制を確立し、ビデオ通話機能をもつスカイプで対面協議□


 藤岡郁建築設計事務所を訪問したのは4月初旬。繁忙期を避けたが取材の合間に電話対応があるなど多忙を極めていた。栃木の協力事務所との協働態勢の下、三つの案件が同時進行していた。

 協力事務所の代表は、事務所在籍時にBIMソフト(Vectorworks:エーアンドエー製)で藤岡氏と設計+モデリングを協働していた。通信環境の革新で、現業拠点が離れた現在も何らの違和感もなく、BIMでの協働が行われている。連載56~58回「深化する施工図事務所の職能」でアートヴィレッヂの事例でも報告したように、ここでも対面協議の際にはビデオ通話機能をもつスカイプ(Skype)が活躍している。

 藤岡氏は、新規営業時のプレゼンテーション、契約案件の施主対応などを担当し、設計+モデリングの進捗に合わせて、適宜、協力事務所に対象建物の3次元モデルを送信する。協力事務所は、バックヤードとして作図作業を担当し、全体の進捗を見計らって、適宜、各種設計図書の作成を行う。BIMによる3次元モデルが両者間をつなぐ共通メディアとしての役割を果たしている。


 □3次元モデルと図面の連動による変更時の加筆修正の迅速化で建設会社へもメリット付与□□


 中小の建設会社や設備工事業者へのBIMの普及は進んでいない。建設会社などではフリーの2次元CADが主流で、BIMによる2次元図面(データ)は〔従〕であり、2次元図面(出力)の提供が〔主〕となっている。

 BIMによる3次元モデルと2次元図面の連動により、設計者は加筆修正と検図の繰り返しから解放されたが、それら恩恵は2次元図面(出力)が〔主〕の建設会社などへも波及し始めている。

 設計者の過半は「BIMの2次元図面の生成能力は進化したが、図面標記は満足してはいない」と語る。一方で、それら齟齬は『図面が成果物』だった名残であり、多くは設計者のプライドに依拠しているのではないだろうか。

 BIMでの図面標記には割り切りが必要だ。実施設計図面は施工業者などとの意思疎通を担うメディアの役割を充足していればよいはずだ。より重要視すべきは図面標記ではなく、加筆修正への迅速な対応が工程順守を可能とし、コスト管理の適正化にも貢献する点だ。図面と共に3次元モデルを施工業者などに閲覧してもらうことで設計意図の伝達精度も高まる。


 □平・立・断面図にアイソメ図を付加して家具などの製作業者への「見える化」のレベル向上□□


 BIMの運用は建築設計事務所の職能範囲をさらに広げ始めている。インテリア・デザイン会社に在籍した経験を生かして藤岡氏は、BIMを用いて家具のデザインも手掛けている。業者へ提示する図面には、平・立・断面図と共に、3次元モデルから抽出したアイソメ図が付加されている。

 今後、注目されるに違いないBIMのデータベース機能。複層する材料から構成される壁を集合的なオブジェクトとして定義し、仕様ごとに分類してデータベース化している。仕様変更時には、該当する壁が一挙に更新、変更される。建築設計は膨大な情報をアセンブリする作業ともいえる。BIM運用では、それら『情報をデザインする』能力が設計者に求められるに違いない。

 「家具などの製作業者にはアイソメ図などの添付は好評だ。専門家同士でも3次元モデルの見える化は効果大で、手戻りも確実に減らせる。プレゼンテーションの質向上で工程最上流への対応力を強化できるし、施工や製作にまで設計意図の見える化範囲を広げることができた。BIMは規模の小さな設計事務所にこそ必要なのではないか」(藤岡郁氏)。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)