BIMの課題と可能性・68/樋口一希/教育現場でのデジタルツール活用・1

2015年6月4日 トップニュース

文字サイズ

 ベテラン技術者の退場が相次ぎ、人手不足が深刻な建築業界。リケジョの活躍を発信するなど、若手技術者確保のため3Kイメージ払拭にも躍起だ。BIMの普及が2次元CADの離陸前夜と似たような状況を呈している現在、産学協同=実学として建築工程の最上流にも位置づけるべき教育現場でのBIMソフト「GLOOBE」(福井コンピュータアーキテクト製)などデジタルツールの運用状況はどのようになっているのか。福井工業大学工学部建築土木工学科の今をリポートする。


 □冒険型プレーパークに設置するツリーハウス 提案+設計+発注+施工まで学生たちで完結□


 実学の重要性を示す事例として同大工学部建築土木工学科とデザイン学科の学生たちがデジタルツールを用いて設計施工を担った「坂井市竹田の里プロジェクト」のツリーハウス・ドームについて報告する。

 同大工学部建築土木工学科の五十嵐(啓)研究室を訪問したのは、ツリーハウス・ドーム建方から約2週間後の5月18日。ホワイトボードには打ち合わせ事項とともに作成過程の写真が貼られているなど、旬の情報に触れることができた。

 坂井市の山あいの竹田の里は、毎年4月の中旬から見頃を迎える100本余のしだれ桜で知られている。建築土木工学科とデザイン学科の学生は、有志ボランティアとして14年秋から「冒険型プレーパーク整備」に参加、同パーク内の中心施設となるツリーハウス・ドーム本体についてデザイン提案から設計、材料発注、施工までを延べ77人の学生で行った。


 □デジタルツールの威力と施工段階ではマニュファクチュアという建築のユニークさを体感□


 ツリーハウス・ドームの写真を見れば明らかなように、従来の2次元CAD(図面)では、デザインスタディ+形態決定はもちろんのこと、図面作成(表現)も困難で、正確な施工図(製作図)もできなかったに違いない。

 実物件としてのツリーハウス・ドームの設計施工に威力を発揮したのはパソコン用3次元モデリング・ソフトウエアとして普及しているSketchUp(TM)だ。

 SketchUp(TM)では、対象建物に相当するオブジェクトをマウスでつまむようにして、自由自在に伸ばし、拡げ、加工できる。設計の最初期、デザインスタディ+形態決定段階では、対象建物を構成する数値情報を重要視する必要はない。一方で、こんな形でと感覚的に「粗く」モデリングしても、背後に数値情報を保持しているので最終の製作図段階では数値(寸法)を1/1レベルで整合できる。

 「デジタルツールを使っても最後は人の手が入り、組み立て、施工する建築のユニークさは通常のカリキュラムでは体感できない。全くのゼロからスタートし、アイデアをモデル化し、リアルとして存在するまでの一連の工程を体験する。規模は小さいが設計だけでなく、モノづくりまで完結できたのは学生にとって大きな自信となり、竣工時には顔つきまで変わっていたほどだ」(五十嵐啓・福井工業大学工学部建築土木工学科准教授)。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)