BIMの課題と可能性・72/樋口一希/東畑版IPD方式の模索・1

2015年7月2日 トップニュース

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 BIM導入・運用の根拠となるIPD(Integrated Project Delivery)方式※などのコンセプトが注目を集めている。東畑建築事務所(本社・大阪市中央区高麗橋2の6の10)がホームページに掲げ、模索を続けているのが東畑版IPD方式だ。BIM状況の進展に伴い、建設業を取り巻く環境変化が予兆される中、東畑建築事務所の取り組みを通して組織設計事務所の「今」を報告する。


 □建設会社側のDB方式を設計事務所の側から俯瞰すると透かし絵のように見えるIPD方式□


 日経アーキテクチュア14年10月10日号の特集『再編される実施設計』。「実施設計がなくなる日-設計事務所の業態が変わる」は業界内に衝撃を与えた。BIMによるフロントローディングで建設会社のプロジェクトへの早期関与が促され(可能となり)、基本設計、実施設計の境界線が消滅しつつあるとの論旨だ。

 合わせて報じられたのが東京都も提唱したDB(Design Build)方式=設計・施工一括発注方式。基本設計とは別途、実施設計と施工を一括で建設会社に発注する方式で、それを「実施設計がなくなる日」との関連で報告している。設計事務所が受け取る報酬のうち、実施設計部分は全体の過半を超えるといわれている。DB方式では建設会社の優位性が高まるとともに、設計事務所にとっては死活的問題となる。

 BIMによる「業としての革新」を建設会社の側から捉えたのがDB方式であり、それを設計事務所の側から透かし絵のように俯瞰したのが今回紹介する東畑版IPD方式だと考える。

 BIMの普及が2次元CADの離陸前夜と似たような状況を呈している現在、それらを対立軸として捉えるのではなく、コラボレーションの土台とするのが重要だ。優れた流通性、可用性によってデジタルデータはやすやすと組織の壁を超え、新たな協働に向かうに違いない。

 東畑建築事務所がBIM運用を進める中で、実案件での東畑版IPD実践に至るまでの過程を順次、報告する。


 □BIM導入を段階的に進めるためのフェーズと目標を設定+年次スケジュールへと落とし込む□


 BIM導入の検証を開始したのは08年。官民ともにプロジェクトが減少し、競合他社との競争が激化した時期だった。従来は受託しなかった小規模案件や遠隔地案件への対応を迫られ、人員配置の困難さも増していた。

 BIM関連の記事がメディアに登場し、「できる」は喧伝されていたが、実際、BIM導入は現業の効率化と設計品質の向上に結びつき、設計体制の再整備は可能なのか。09年にはBIM導入を段階的に進めるためのフェーズと目標を設定し、それらを年次スケジュールへと落とし込んでいった。

 BIM導入効果の検証はISO取得を担った大阪本社品質推進室が担当、BIMのメリットと現状の課題点の見える化を進めながら、暫時、東京、名古屋、九州事務所へ拡げていった。

 ◇フェーズ1-1:3次元モデリング

 ・モデルプロジェクトによる試行(外観/内観レンダリングなど)

 ◇フェーズ1-2:基本設計段階・一般図面化

 ・基本設計段階での試行(フェーズ2:リスト作成機能含む)

 ・モデルプロジェクトによる試行(実施1物件)

 ◇フェーズ2:リスト作成機能

 ・モデルプロジェクトによる試行

 ◇フェーズ3:環境シミュレーション

 ・モデルプロジェクトによる試行(実施1物件)

 ◇フェーズ4:実施設計・エンジニアリング部門連携

 ・モデルプロジェクトによる試行(実施1物件)

 ◇フェーズ5:基本設計・実施設計・建築確認申請までのBIM適用

 次回は、実施設計案件(武田薬品工業研修所・宿泊棟)へのフェーズ1-1:3次元モデリング(外観/内観レンダリングなど)の適用の実際を報告する。

 ※IPD方式=建築関係者が早期にプロジェクトチームを編成し、品質の高い建築を提供するために、建築主に対して提案する「早期施工者決定方式」。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)