BIMの課題と可能性・73/樋口一希/東畑版IPD方式の模索・2

2015年7月9日 トップニュース

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 東畑建築事務所がBIM導入・運用のため制定した指針、▽フェーズ1-1=3次元モデリング(外観/内観レンダリングなど)▽フェーズ1-2=基本設計段階・一般図面化▽フェーズ2=リスト作成機能+フェーズ4=実施設計段階-をそれぞれ適用したモデルプロジェクトについて報告する。


 □BIM適用の第1号案件=見える化で実証できた建築主との合意形成の精度向上と時間短縮□


 10年に竣工した武田薬品工業の研修所・宿泊棟「創知の杜」。吹田市街から生駒の山並みを見渡す丘陵地に位置し、SRC・RC・S造地下1階地上4階建て延べ2万3933平方メートル。11年には第4回大阪サステナブル建築賞(奨励賞)を受賞。BIM適用の第1号案件のため、3次元モデリングの実効性に的を絞り検証をスタートした。

 実施設計(図面)を下敷きに、BIMソフト「Revit」(オートデスク社製)でモデリングを行い、Revitで内外観レンダリングパースを作成した。設計対象建物を「見える化」する3次元パースは、施工現場での適宜変更の迅速化にも貢献した。

 内外装の仕様決定時の建築主との協議に、BIMは最も効果を発揮した。主要70室に壁・床・天井材・照明器具・家具を全て配置してモデリング+レンダリングした結果、仕様変更も微細にとどまり、合意形成の精度向上と時間短縮を実現した。

 特に力を入れたのは、全ての研修生や来訪者が最初に足を踏み入れるエントランスのアトリウム。配置した照明器具(光源)は200カ所、当時はハードウエア性能がレンダリングソフトの能力に追いついておらず完成までに3日間を要することもあったが「見える化」効果は絶大であった。


 □3次元モデルから基本設計段階での一般図生成の精度向上のためにテンプレートなど開発□


 次年度にはフェーズ1-2=基本設計段階・一般図面化…モデルプロジェクトへのBIM適用にチャレンジした。S造2階建て延べ749・9平方メートルの小規模な某保育園。目標とした成果物は、3次元モデルから生成する基本設計段階での一般図とした。

 本事例でも、表示させたくない線が図面に現れたり、その逆の現象も起こるなど、3次元モデルから2次元の一般図生成は思うに任せなかった。課題解決に向けたソフトベンダーとの協働、設計者の知見の集約を行い、BIMソフト「Revit」に特化したテンプレートの開発、ガイドライン(マニュアル)の整備を行った。

 設計者は、BIMによる3次元モデルと2次元図面(データ)の相関性=平・立・断面図の不整合回避が実現するのを理解した。3次元モデルの修正がダイレクトかつ同時に2次元図面(データ)へと反映されるため、従来の平面図の後に断面図、立面図を描くという経時的な設計プロセスも不要となり、作図時間の短縮も実現した。


 □データベースとしてのBIMの特性を活かして建具表などのリスト作成時間を大幅に短縮□


 フェーズ2=リスト作成機能+フェーズ4=実施設計段階での検証では、某健康診断センターをモデルプロジェクトとして選定した。

 BIMによる3次元モデルは、対象建物を構成する各種のオブジェクト(部材・部品)の集合体=データベースだ。オブジェクトを自動集計し、面積表、仕上げ表、建具表として集約、図面内にレイアウトするリスト作成機能は作図=作業時間の大幅な短縮に貢献する。

 健康診断センターの特性上、室内には各種測定機器・備品から待合室のソファーに至るまで大量のオブジェクトが収納された。設計者は、リスト作成機能の効果を最大化するため、どのようにオブジェクトを区分けするのかなどのノウハウを蓄積していった。

 基本設計段階での基本図作成のテンプレート開発の知見を実施設計に展開することで、この段階でも3次元モデルから実施設計図面の平面詳細図(1/50)の作成が可能となっている。

 次回は、数次にわたるモデルプロジェクトへのBIM適用を受けて設置されたBIMチームの活動、東畑版IPD(Integrated Project Delivery)方式の適用実施案件などについて報告する。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)