BIMの課題と可能性・1/樋口一希/BIM運用の今後の可能性を探る

2014年1月23日 トップニュース

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 建築メディアにBIMの記事が掲載されることが多くなった。本稿ではBIMを主要テーマとして、建築分野におけるデジタル化の最新状況と課題、その可能性について報告する。

 BIM(Building Information Modeling)。狭義には3次元の設計・モデリングツール、広義にはコンピュータ上に構築した3次元の建物モデルに、さまざまな属性データを付加し、設計・施工から竣工後の施設管理までを行うためのソリューション。

 狭義にとしたのは、BIMが普及し始めたのが最近であり、設計・施工から竣工後の施設管理に至るまで援用した事例がなく、実務的には設計段階での3次元の設計・モデリングツールとして使用するケースがほとんどだからだ。


□既存建物を対象にしたBIMによるライフサイクル・コスト算定の試み□

 初回は大成建設と日本IBMが行った建物のライフサイクル・コスト算定の試みの詳細を3部構成で報告する。

 数十年に及ぶBIM援用の事例はない。両社は日本IBMの大阪市西区にある1974年竣工のオフィスビルを対象に、設計・施工から施設管理に至るまでBIMを運用したと仮定し、シミュレーションを行った。

 結果は注目に値するものだ。建物の設計・施工の初期コストは、竣工後の管理運営コストも合わせた全体のライフサイクル・コストの約4分の1であることを国土交通省建築保全センターなどの資料も用いて再確認した。

 またBIMとファシリティー・マネジメントの連携によって、運用コストの約10%から20%の削減が見込めることを明らかにした。


□施工図作成=躯体BIM運用で明らかとなった3次元データ運用のメリット□

 第2回目では清水建設の施工図部門がBIMツールを躯体BIM=施工図作成の領域に活用したケースを同じく3部構成で報告する。

 施工図が2次元図面として建築工程の中を流通している現状の中で、施工図部門はBIMの試用を通して、3次元データの有用性に気づいていた。2次元図面では「見難い場所」を、擬似的に壁の後ろ側に回るなどして「見える化」もできる。コンピュータの中で施工の「前倒し」によるリアルな「干渉チェック」が可能となる。一方で、2次元と比較して、3次元データの作成には、より多くの手間がかかる。試行錯誤の結果、2次元で施工図を描くのと、BIMで3次元データを入力し、2次元の施工図を作成するのでは、よほど複雑な躯体形状でなければ、使用しているBIMツールの機能範囲内で、コストがほぼ同じとの結果を得たと公表した。


□BIM運用の課題を明らかにした上で今後の可能性を探る□

 建築の設計から施工に至る生産工程の中を、現状では共通の「符牒」のように2次元図面(データ)が流通している。ではBIMによる建物の3次元データとはどのように整合性をとるのか。長期に渡るBIM運用には費用がかかる。それらを支出するのは基本的には建築のユーザー=クライアントだ。BIM採用のためには、建築の側が具体的な数値を交えてメリットを提示し、クライアントを説得する必要がある。そのための情報公開のあり方と合意形成のルール作りが急務だ。

 小規模の設計組織や建設会社ではBIMを広義に捉えると、壮大な絵姿であり、新たなBIM導入のコスト負担もあるから普及は進んでいないようだ。大手組織の協力組織として生き残る手もあるだろうが、それでは業界全体の革新にはならない。シンガポール政府は一定規模のブロジェクトに対してはBIM導入などの支援を行っているが、我が国でも何らかの施策が必要だろう。

 BIM関連システムを提供するベンダーは、立場上、立て板に水のように「できる」を強調する。この連載では、建築のジャーナルとして、BIM運用の現状の課題を踏まえた上で、前向きの指針、ヒントが提示できれば幸いだ。(アーキネットジャパン事務局)


△樋口一希=建築ジャーナリスト・エディター。1980年代の初頭に「建築とコンピュータ」誌(現エクスナレッジ刊)に参加、その後も建築分野での雑誌編集、書籍出版、執筆などを行うと共に、IT分野でもさまざまなプロジェクトに参加。

△アーキネットジャパン(Archinet Japan)事務局=インターネット以前、パソコン通信(BBS)時代から活動を始め、現在も建築分野の情報化をテーマにFacebookページなども運営。

 (毎週木曜日掲載)