BIMの課題と可能性・88/樋口一希/海外のBIM事情・3

2015年11月5日 トップニュース

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 BIMコンサルタント井上淳氏へのインタビューを再構成し、鮮度抜群の米国BIM事情を報告する。


 □写真感覚で現場をスキャンしてレコードBIMを構築し仮想のBIMモデルとの偏差を確認する□


 井上氏は9月中旬、GSA(米国連邦調達庁※)でBIMガイドライン策定に参画した友人を訪ね、スタンフォード大学で開催のCIFE(サイフィ※)サマープログラムに参加した。

 大学院生が開発中のシステムは、施工状況を無個性な3次元データ(ポイントクラウド)としてではなく、ポイントクラウドの集合体(オブジェクト)=「床」「壁」「天井」として認識して取り込むもので、BIMソフト上にRecord-BIM(レコードBIM)を構築するものだった。

 BIMモデルは、リアルな建築物の側からすると仮想(バーチャル)だ。施工現場はマニュファクチュアで、BIMモデルとリアルな施工実態との間には偏差が生じる。内装工事前には躯体寸法(リアル)の測定が必要だし、ダクト設置時にも偏差管理は必須。そのことからバーチャル(BIMモデル)とリアル(施工実態)との偏差を整合=統合した『情実一致』のAccurate As-Built BIM(竣工図書のBIM版)の構築が求められる。

 「写真を撮る感覚で施工現場をレーザースキャンする。Designed-BIMから最終的にAccurate As-Built BIMを構築するためだ」(井上氏)


 □建築主が主導するIPDに仕組まれたIFoAを通してリスク回避と利益共有を定量的にも実現□


 次に訪問したのは建築主(オーナー)としてIPD(※)を実践しているヘルスケア関連のデベロッパー。新規病院建設などのプロジェクトに際し、コンペティション、入札を経て自らが主導して設計事務所、ゼネコン、サブコンを糾合、IPDをプロトコルとしてIFoA(Integrated Form of Agreement)=4者間契約を結ぶ。

 IFoAが締結されると、「大部屋(oobeya)」と呼ぶスペースに、組織を超えて集合し、プロジェクト最初期段階からBIMを用いて設計・施工・(FM)へと工程を進める。組織論・人的にも究極のフロントローディングであり、「大部屋」運営のためには最適化アルゴリズムの研究も進めている。

 4者は定量的に根拠ある『性能発注』を基本として建築主から提示されたターゲットコストに対して、プロジェクトの予算配分を協働で策定。その予算をベースにBIMコスト、設計コスト、工事コストも算定し、フィー(実費)ベースで契約する。IFoAにはコラボレーションを成立させるため巧妙にシステム〔3~5%のコンティンジェンシー・フィー(contingency Fee)〕が仕組まれている。

 まさか(contingency)の出来事が起こり、コスト内に収まらない場合には3~5%を切り崩し、収まった場合には分配する。リスク回避の損益共有だけでなく、インセンティブ向上のための利益共有のシステムにもなっている。

 これらは「オープンブック」=完全な公開性の基に実施されるから、疑心暗鬼もないし、相互監視機能も果たすので手抜きもできない。フィーベースだから工程内に収めるのは当たり前だし、成功裏に済めば分配へのインセンティブもある。

 「BIMは単なるツール。IPDというプロトコルで、どのようなIFoA=契約を結び、当事者間の協働関係を構築するのか。米国では、そこまでの先駆的な試みが進行している」(井上淳氏)。

 ※GSA(General Services Administration)=米国連邦調達庁。連邦政府機関および職員が発注する備品の調達を担い、2007年度予算からBIM活用を発注条件とする施策を開始。

 ※CIFE=Center for Integrated Facility Engineering。AEC(Architecture-Engineering-Construction)産業におけるバーチャルなデザイン+建築に関する研究を担う民間の中核機関。http://cife.stanford.edu/

 ※IPD(Integrated Project Delivery)=米国建築業界で主流のビジネスモデル。プロジェクト関係者が初期段階からチームを作り、より良い建築物を建てるという共通目的の下、優れて有効な意思決定を可能にする協働形態。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)