BIMの課題と可能性・94/樋口一希/安井建築設計事務所のBIM戦略・3

2015年12月17日 トップニュース

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 10月23日開催のArchi Future 2015での「日本初のBIM-FMビジネス~ライフサイクルコストを踏まえたプロセス・イノベーション」。村松弘治氏(常務執行役員東京事務所長・設計本部長)の講演を基に安井建築設計事務所の標榜する「日本初のBIM-FMビジネス」を報告する。


 □設計(者)のマネジメント力を強化してクライアント=広く社会にソリューション提供□


 消費を「遅れてきた生産」と捉えられるように、不動産は「遅れてきた建築」といえる。優れた可用性と流通性をもつデジタル情報=BIMから俯瞰すると、建築設計の射程距離をFM(ファシリティーマネジメント)の知見を用いて、不動産の運用・管理にまで伸延できる。我が国のFMでは、施設管理の効率化やコスト削減効果が注目されるが、BIM-FMの先進国の欧米では、「氏育ちの良いBIM-FMモデル」は不動産価値を上げるといわれる。

 安井事務所が目指すのは、BIM-FMによって設計(者)のマネジメント力を強化し、クライアント=広く社会に向けた新たなソリューションを提供するマネジメントビジネスの構築だ。そのために強調したのが「クライアントのためのBIM-FM」だ。


 □BIM-FM普及の鍵を握るクライアントのために建築の専門性を開いてわかりやすい仕組み提供□


 クライアントにメリットが伝わらず、使いやすい仕組みが提供されていないからBIM-FMは普及しない。建築の素人=非専門家のクライアントに対して、専門性を開いていくために安井事務所が提供するのが「クライアントのための3つのBIM-FM」(図1)だ。

 1.PIM(Panorama Information Modeling)=パノラマ-FM

 管財・総務担当者向け。室内など360度のパノラマ写真を利用し、設備機器などの管理情報を遠隔地からでも必要に応じて特別な技能なしに操作、確認できる。BIMデータと連携させることも可能。

 2.SIMS(Smart Information Management System)

 営繕・管財担当者向け「BIM-FM」簡易版。BIMモデルとExcelによる維持管理書類を連携させて情報を柔軟に拡張・管理可能。習熟の容易さとともに、品質を確保しながら維持管理コスト削減を目指す(図2)。

 3.BIMS(Building Information Management System)

 専任の施設管理者向け「BIM-FM」の本格版。ビル管理会社の専門・専任管理者が利用し、管理者非常駐の小規模建物から常駐の大規模建物までを対象。実施例として前稿の加賀電子本社ビルのBIM-FMを紹介。


 □BIMモデル(オブジェクト)でなく属性情報(テキスト)による「軽やかな」運用を提唱□


 「クライアントのための3つのBIM-FM」には、安井事務所が長年にわたり培ってきた建築情報のデジタル化の知見が集大成されている。

 BIM-FMの目的は、運用・管理の品質確保とコスト削減だから、情報過多の施工BIMモデルでなく、基本設計のBIMモデルでBIM-FMモデルを構築するルールを提唱している。

 「BIM-FM」簡易版のSIMSでは、BIM-FMモデルの形状(オブジェクト)とIDで連結した属性情報(テキスト)のExcel上での「軽やかな」運用を提唱している。

 それら「クライアントのためのBIM-FM」を用いて、BIMと〔コンストラクション+プロジェクト+ファシリティー+プロパティー〕マネジメントを統合する。広く社会に向けて新たなソリューションを提供するため設計事務所に求められるのは、企業・組織が保有する不動産の適切な運用に不可欠なCRE(Corporate Real Estate)戦略への貢献だ。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)