BIMの課題と可能性・97/樋口一希/前田建設の最新BIM・1

2016年1月14日 トップニュース

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 2000年代初頭から、BIMの前身といえる3D-CADを独自運用してきた前田建設。「建築∩(キャップ)コンピュータ」の知見を集大成した最新のBIM運用事例に基づき、次の戦略的展開も探るべく4回に分けて報告する。


 □04年には既に3D-CADの独自運用でモデル・集計・作画を統合するBIM概念を先取り□


 サイトで公開中の「3D-CADシステムの経緯」からもわかるが、04年にはモデル(化)・集計(数量:コスト)・(2次元)作図・CG(一部)を内包する意匠・構造・設備の専用3D-CADの運用を本格化していた。ニュースリリース(04年8月4日)には、さらに明確に、現在のBIM的概念を先取りした3D-CAD展開の優位性が明記されている。

 〈1〉顧客への提案能力・意志決定の向上(情報の共有、迅速化)

 〈2〉不整合を防ぐことによる品質の向上

 〈3〉オンタイムのコスト把握

 〈4〉企画計画から維持管理までの情報の一元化による工程管理

 〈5〉施工段階でのCADデータの有効活用(積算の省略、仮設計画、施工図、PCa製造や鉄骨ファブとの連携など)。

 目指すべきは「BIMによる設計・施工の生産性向上を実現し、業務プロセスを革新する」(建築事業本部企画・開発設計部門長・鈴木章夫氏)と極めて明確である。


 □建築とBIM+ICTとの統合で建設会社の業態を革新し若手技術者に新たな展望を提示する□


 前田建設の飯田橋本店で15年9月24日に開催された講演会「前田建設の設計部門の仕事とMAEDA-BIM」。総合資格主催であったため、学生向けに「業としての建築」の現在の課題と、それらをデジタル化とともに、いかに克服するのかの指針を示す、優れて革新的な内容であった。

 1級建築士試験の受験者は最盛期から半減し、建築系学部を卒業しても、他分野で職を得る者が増えているとの現状。「業としての建築」とBIM+ICT技術との統合により、建設会社の業態を革新し、若手技術者に新たな展望を提示する。事例としてデジタル化での設計実務の変遷とフルBIM化状況を定量的に明らかにした。

 ◇10年ごとの設計ツールとデータ量の変移(高層物件・意匠設計の例)

 ・93年:2D-CAD:データ量=ファイル367個・243MB〔参考:図面(紙に焼ける図面)枚数189枚〕=ファイル数が図面枚数より多く、複雑な管理が必要。

 ・03年:3D-CAD:データ量=ファイル71個(820MB)〔参考:図面(同)枚数157枚〕=ファイル数が格段に減った。

 ・13年:BIM:データ量=ファイル1個(967MB)〔参考:図面(同)枚数81枚〕


 □BIMの優位性を徹底活用し建築の射程距離を伸延するため「ファンタジー営業部」を仮想□


 グーグルの関連会社(Flux Factory,Inc.)がネット上でテキサス州オースチンの中心部を対象にした都市計画システムを公開した。既存の不動産業にICT技術を導入し、世界的規模で民泊市場を構築したAirbnbは設立から7年余で時価総額2・9兆円といわれる。BIMによる建物の3次元モデルはIoT(Internet of Things)と極めて親和性が高く、新たにInternet of Buildings市場を拓くに違いない。

 前田建設ではBIM担当部署の若手技術者を中心に「ファンタジー営業部」を仮想し、モビリティ、アパレル、建設の異業種コラボ「未来の百貨店」※の提案をしている。50年後の百貨店を仮想した「ウォーターラビリンス」。コンセプトは立体的な水路上の百貨店。全て曲線の床、壁、天井、水路の微妙な勾配もBIMだからこそ表現できた。

 「ネットショッピングなどでは感じられない、百貨店に行くことで楽しめる、また体験を楽しむために百貨店に行こうと思えるものを考え、アミューズメント施設のような店舗を提案しました」(企画・開発設計部BIM設計グループ・松島早紀氏)。

 ※ファンタジー営業部「未来の百貨店」(https://www.maeda.co.jp/fantasy/design/mirai03.html)

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)