BIMの課題と可能性・104/樋口一希/建築におけるデジタル×デザインの現在

2016年3月10日 トップニュース

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 建築の産業論的な側面から「BIMの課題と可能性」を探索しているが、今後、建築におけるデジタル×デザインの「現在」も検証するべく、これまでの知見を整理する。


 □BIMによる実としての構造体=モデルを用いてどのように虚=空間を形成するのかが重要□


 80年代初頭、有限要素法に基づく構造計算プログラムの記事を書くため、著名な建築家との協働で知られる構造設計家の木村俊彦氏の事務所へ足繁く通った。木村氏が語った言葉を鮮明に覚えている。「優れた建築家はあらかじめ構造的にも理にかなった形を提示する」。

 大阪大学の笹田剛史教授の研究室で、新宿の高層ビル群の3次元座標を学生たちが総掛かりで入力をしていた際のことだった。笹田教授の語った「実としての構造体=モデルを用いて、どのように虚=空間を形成するのかが重要だ」。それら意味深い示唆を道標に、デジタル×デザインの「今」も探ってきた。


 □CAD・CGツールに即したフィジカルな感覚を語った自らデジタルツールを使うムサヴィ氏□


 自然を模したような横浜港大さん橋国際客船ターミナル。なだらかな丘のようなウッドデッキや曲面を多用した内部壁面の実現のために細かく裁断された木材が用いられている。

 03年2月24日、設計者の一人であるファッシド・ムサヴィ氏(Farshid Moussavi)の講演の後、インタビューする機会を得た。

 「模型は立体的な検証では限定されてしまう。デザインプロセスの中でデジタルツールを使う有利さは、模型よりもはるかに自由で複雑な3次元シミュレーションが可能なことにある」

 自らデジタルツールを使うと語ったムサヴィ氏。「設計者がCAD・CGツールを使いこなせれば、デジタルツールに即したフィジカルな感覚を新たに得られるのではないか」。


 □BIM普及の契機「コンピュータのおかげで建築家はクライアントのパートナーになれる」□


 今年2月7日まで21_21 DESIGN SIGHTで開催された「建築家 フランク・ゲーリー(Frank Gehry)展」。多くの模型と共に、デジタルツールによるデザイン・設計のプロセスを紹介する展示に目を奪われた。

 ゲーリー事務所では、80年代から航空機の設計製造に用いる3D CAD「CATIA」(ダッソー・システムズ社製)の探求を開始した。02年、コンピュータ部門とダッソー・システムズが提携、ゲーリー・テクノロジーズを設立し、「CATIA」を基に独自開発した3D CADによる建築分野でのデジタルツール援用を本格化させている。

 ゲーリー氏は、デジタルツール援用のメリットを「設計段階でコスト管理の基本的な要素となる表面積や床面積、容量なんかを正確に分析できるようになった」とし、建設会社との関係では「構造も、機械系統も電気系統も分かるし、プロジェクト全体を統括して、建設会社に精度の高い情報を提供できる」と語っている。

 また、不可避的に起こる設計変更と予算オーバーについては「分からないのは市場の価格変動だけで、これだけは建設会社も建築家もクライアントも予測不能だ。だが、それ以外はすべて制御できる。鉄鋼の価格や金利の上昇が見込まれるとしたら設計段階で考慮できる。コンピュータのおかげで建築家はクライアントのパートナーになれるんだ」と明快だ。

 「業としての建築」への、BIMを中核とするデジタルツールの援用はすでに必須なのに、この国も含め、建築家からの情報発信は極めて少ない。そこに肉薄できないジャーナルの自戒も含めて、取材を続けている。

 (出典:『「Frank Gehry」フランク・ゲーリー 建築の話をしよう』。バーバラ・アイゼンバーグ著、エクスナレッジ刊。P291-P293)

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)