BIMの課題と可能性・148/樋口一希/小規模組織のBIM運用・5

2017年2月9日 トップニュース

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 設計部門におけるBIM運用によって「3次元モデルが主で2次元図面は従」との業務革新を現実のものとした原忠(福岡県田川市)。3次元モデルを施工へと援用するメリットをBIMのI=Informationとの関わりにおいて検証する。


 □近隣住民から施工技術者まで利害相反もある関係者間に広がるBIMの「見える化」効果□


 3次元モデルの「見える化」効果によって決定的な利害衝突を回避したケース。近隣住民が側溝から浄化槽に至る配置計画に異議を唱えていた。対案を示すにしろ、配置図では理解が進まないと考え、当該住宅の給排水設備から配管を経て側溝から浄化槽に至る3次元モデルを作成し、説明することで事なきを得た。BIMソフトを使えば、配管に勾配を付けたモデルも容易に作成できる。設備業者との合意が早まるなど副次的効果もあった。

 4号建物では原則、構造計算が免除されるため軸組図を作成する必要はないが、BIMソフトでは軸組図(モデル)も容易に作成できるためメリットもある。柱に集成材を用いたケースでは、その部分の柱モデルに着色し、差別化を図り、施工手順の再確認にもつなげている。

 「床と梁の干渉が複雑な階段の納まり部分もモデル化して大工との現場打ち合わせ時間を短縮できた」(原忠代表取締役の原口広氏)


 □BIMのI=Information活用で根拠に基づく積算+ZEH申請受理で施主へのサービス向上も実現□


 BIMの3次元モデルが包含するI=Informationは多種多様で、その応用範囲も多岐にわたる。

 BIMソフト「Vectorworks」には、マイクロソフト社の表計算プログラム「エクセル」に近似するワークシート機能がある。モデルが内包するI=Informationとワークシートを連動させることで、基礎を構成する鉄筋、コンクリート量、型枠の数量算定なども行っている。数量算定に必須の鉄筋の長さも3次元モデルが包含するし、コンクリートでは体積を返す関数、型枠では面積を返す関数も使用できるからだ。

 明確な根拠に基づき、事前に鉄筋量などを把握しておくことで、基礎業者との打ち合わせも円滑化できる。

 ZEH(※)の申請図書作成時にもBIMソフトが威力を発揮する。ZEHが要求する省エネルギー性能を実現するためには、居室と非居室を分け、吹き抜けとリビングは一体化したり、窓の大きさ、設置する方位方角、断熱化する外皮面積などを明記する必要がある それらは全て3次元モデルが包含するI=Informationを用いて設計し、計算可能だ。

 「ZEHにおいては、法改正された場合、Vectorworksのレコードフォーマット機能を使えば、あらゆる変化に対応可能で、ベンダーの法改正対応待ちでなく、全て設計者側でリアルタイムに設定できるのが大きなメリットである」(原口氏)

 関係者間の距離も短く、情報伝達の速度も早い小規模組織だからこそ、設計から施工へと至る円滑なBIM運用が実現したといえる。

 ※ZEH(ゼッチ)=Net Zero Energy Houseの略。詳しくは資源エネルギー庁ホームページ(http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/zeh/)参照。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週火・木曜日掲載)