BIMの課題と可能性・160/樋口一希/日建設計の内部設計支援組織・1

2017年3月28日 トップニュース

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 本稿第8~10回「組織設計事務所のBIM」で日建設計を取材し、山梨知彦氏へのインタビューも交えて報告したが、今回は、ICTによって設計者を支援し、協働する3DC(Digital Design Development Center)+DDL(Digital Design Lab)の「現在」にフォーカスする。


 □既存の産業にICTを注入して撹拌すると産業構造の革新と新たなビジネス創造に結びつく□


 メディアでも自動車配車サービス「Uber」や民泊サービス「Airbnb」などに注目が集まっている。昨年の暮、調査でパリを訪れたテキスタイルデザイナーは、8日間の滞在で一度もタクシーに乗らなかった。第17~19回「小規模組織の生き残り戦略」の香月真大建築設計事務所は、BIMによる建売住宅の標準化設計手法をリノベーションへと拡張し、民泊施設の企画で新たなビジネスチャンスをつかみつつある。

 ICTが「所有するからシェアする車へ」「建てる=売り買い・貸し借りするから泊まる建物へ」の革新を可能とし、すでに都市の交通アクセスや建築設計のあり方にも変化を与えつつある。

 空き室問題が喧しいが、その先にある建て(られ)ないことを見据えた動きもある。数百万戸を建ててしまったある住宅メーカーは、既存顧客のビッグデータをベースに医療、介護、子育て、教育分野などへの進出を模索、逆説的すぎるが「建てない住宅メーカー」も模索している。

 15年10月にMITメディア・ラボ創設者のニコラス・ネグロポンテ氏が行った講演「Differences」は衝撃的であった。「2020年に東京を走る車が全て全自動運転車になるとシミュレーションすると、東京から駐車場がほぼなくなる」。「創る」=設計+「建てる」=施工時に構築されたBIMモデルは、IoT技術などとの親和を通じて走行中の自動車と通信し、自動車同士の通信と相まって駐車場の空きの最適化にも援用できる。「東京から駐車場がほぼなくなる」と、課題は、すぐに都市計画の革新へと直結するに違いない。

 建築が世界の森羅万象を扱うのならば、これらの変化に最も敏感であるべきだ。急激な変化は劇薬でもあるが、変化が不可避であるならば、行き着く所まで先鋭的に行ってみる。そして、最も重要なのは、未来を追憶するように、往く道を行き着き、還ってくる視線で現在を俯瞰することだ。


 □ICTが建築設計に与えた革新を三十数年間にわたる偏位から測定して次の不可避な胎動を探る□


 建築設計におけるコンピュータ利用の取材で日建設計を初めて訪れたのは81年半ばだ。成果は連載タイトルにも引き継いだA∩C「建築とコンピュータ」誌(現エクスナレッジ刊)に集約している。

 ある劇場の観客席からの舞台の見え隠れ、高速移動する新幹線の車窓から見たポーラ化粧品の工場、神戸ポートピアホテルのラウンジから新交通システムの高架越しの海への視線確認、製図板内には収まらない長大な距離で中心点が存在する長円形のテーブル、そして新宿NSビルの基準階平面図など。どれもコンピュータ援用設計(Computer Aided Design:Drafting)の当時の可能性を極限まで切り開いたものだった。

 図は「ある劇場の観客席からの舞台の見え隠れ」の検討パース。単線描画で動かない。視点を変えたければ、条件を再入力し、ディスプレイ代わりのXYプロッタから出力しなければならない。市販のBIMソフトなら簡単にモデリングでき、視線検討もリアルタイムで可能だ。

 ICTは建築設計にどのような革新を及ぼしたのか。三十数年の間の偏位を測定し、次への胎動を探るべく、キーワード「Inevitable(不可避な)」を携えて日建設計の3DC+DDLを訪問した。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週火・木曜日掲載)