BIMの課題と可能性・185(おわり)/樋口一希/建築のデジタル化が大きく進展

2017年6月29日 トップニュース

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 3年半にわたる連載「BIMの課題と可能性-建築のデジタル化の現状を追う」も幕を閉じる。支援していただいた方々に感謝する。タイトル「BIMのその先を目指して」をもって再会を期すべく取材を続けている。


 □2次元CADの普及期よりも短い滑走距離を経てBIMは離陸して巡航高度に移行しつつある□


 BIMを取り巻く建築とコンピュータの分野は大きく様変わりした。BIM運用が定着しつつある組織では、「作業としての製図=修正+検図+出力」の終焉も視野に入ってきた。

 2次元CADでは、平・立・断面図など複数図面間の修正や検図に膨大な時間を要している。BIMでは、3次元建物モデルを修正すれば「8割~程度の精度」で各種図面が生成できるとの認識が大勢となった。

 3次元建物モデルの修正で図面間の整合性がとれるBIMのメリットを最大限に活かし、建築確認申請の直前まで図面出力しないとの割り切り=覚悟の表明もみられる。本稿第176回「建築確認申請書類作成テンプレート公開」のように、現行制度の中でBIMの3次元建物モデルを活かす動きも急だ。


 □「壁は作らず」異なる工程・組織間を超えて「架橋する」デジタル情報の現在性と優位性□


 BIMによる3次元建物モデルの優位性は、3つのV(Visualize+Virtualize+Venturize)に集約できる。中でも見える化=Visualizeは、建築のユーザーなど非専門家に向けて専門性を開き、合意形成の質的向上と時間短縮に威力を発揮する。

 情報の見える化は、建築内部のコミュニケーションの質も劇的に改善する。本稿第134~137回「現場作業所でのBIM運用」の竹中工務店のように、ゼネコンでは、専門工事業者も巻き込み、3次元モデルの優位性を活かしたモデル承認への挑戦を開始した。

 可用性、流通性に優れたデジタル情報は、工程間、組織間をやすやすと超えていく。「創る」=設計モデルは、最も重要な生産拠点である「建てる」=施工へと援用され、コスト削減や品質向上など定量的にもメリットも発揮し始めた。


 □FMモデルは「経営する」=PM(Property Management)へ援用され新たなビジネスチャンス創造□


 「創る」=設計モデル~「建てる」=施工モデルは「管理する」=FMモデルへと変貌し始めた。本稿第156~158回「スターツコーポのBIM戦略」のように、BIMとFM間で異なる『I』=InformationをマッチングさせながらFMに必要な『I』=Informationを自動的に抽出、移行するデータマイニング(掘り出す)技術も現実化した。

 連載初回の本稿第1~3回「コスト削減定量化の試み」において、BIM-FM連携で約10~20%の建物運用コスト削減が見込まれる実験結果を報告したのは、建物情報のデジタル化は建築内部にとどまらず、建築主にとってもメリット大だと考えたからだ。不動産が遅れてきた建築だとすると「管理する」=FMモデルは、不動産を「経営する」=PM(Property Management)へと援用され、新たなビジネスチャンスを創造する可能性を持つ。


 □建築のデジタル化の到達点を鮮やかに啓示的に示すコピー「Build Twice,Frist Virtual,Then Real」□


 BCA(Building and Construction Authority) Academyは、バーチャル・シンガポール構想にも関与するシンガポール政府建築建設局の教育施設だ。入口には、「Build Twice,Frist Virtual,Then Real・Innovate・Integrate・Transform」が掲げられている。「二度建てる。最初にバーチャル(デジタル)で建て、二度目にリアル(実)で建てる」とは、建築のデジタル化の到達点を指し示す啓示的なコピーだ。

 私たちはスマホなどデジタル機器を用いて人類史上初めてVirtualize=仮想空間上に街を創り始めたのかもしれない。工程最上流の企画段階ではSNSを用いたデータドリブンな調査もより良い建物づくりに効果的なはずだ。「業としての建設」の立ち位置を踏まえ、Connected CarからConnected Building+Internet of ThingsからInternet of Buildingsなどへと続く社会全般の情報化と並走し、変化へのラディカルな対応が求められている。建築のデジタル化の未来への探求を始めよう。(おわり)

 〈アーキネットジャパン事務局〉

 連載のご愛読ありがとうございました。7月11日付から「BIMのその先を目指して-建築のデジタル化の未来を探求」と題して再スタートします。