BIMのその先を目指して・19/樋口一希/AI活用のアクティブ制振技術・1

2017年9月14日 トップニュース

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 NTTファシリティーズでは、超高層建物の長周期地震動対策として業界初となる振動制御にAI(人工知能)を活用する「アクティブ制振技術」(※)を開発した。

 □数値解析シミュレーションと振動実験により高い制振効果を生み出す技術の有効性を確認□

 東日本大震災の発生時には、長周期地震動による超高層建物の揺れが長時間続き、仕上げ材・設備の損傷や什器類の転倒などが多発したが既存の超高層建物への対策は十分に進んでおらず、高い確率で発生が予測される南海トラフ沿いの巨大地震に向けた対策が喫緊の課題となっている。
 NTTファシリティーズでは、長周期地震動発生時の超高層建物の損傷低減と居住者の不安軽減を目的に、AIを活用して、従来技術よりも高い制振効果を生み出す新たな手法の研究を進め、数値解析シミュレーションと振動実験により本技術の有効性を確認した。
 近年、「機械学習」の実用化と「ディープラーニング(深層学習)」の登場によりAI技術は急速に進歩しており、幅広い分野においてAIの活用が進められている。

 □振動実験により従来のパッシブ制振に比べて建物の揺れを50%以上低減できるのを確認□

 「アクティブ制振技術」は、強化学習とディープラーニングを組み合せた深層強化学習により最適な振動制御を学習したAIが、地震の揺れに応じて建物内部のダンパーを電動アクチュエーター(※)で制御するもので、大型模型試験体を用いた振動実験によって従来のパッシブ制振に比べ建物の揺れを50%以上低減できるのを確認している。
 既存の超高層建物の長周期地震動対策として「アクティブ制振技術」を導入することによりパッシブ制振と同じ制振性能を概ね半数のダンパーで実現させ、工事量の削減、工事期間の短縮を通して対策工事コストを最大30%削減することを目指している。
 ※アクティブ制振技術=外部からのエネルギーを用いて揺れの抑制に必要な制御力を建物に与える振動制御方法。センサーにより計測したデータに基づいて制御力を決定し、ダンパーを能動的に動かして建物の揺れを制御する。
 ※電動アクチュエーター=モーターと機械部品を組み合わせた電気エネルギーを利用して伸縮する駆動装置。
 【シミュレーターを用いた深層強化学習イメージ(図)】
 深層強化学習では、建物をできる限り揺らさないことをゴールの状態とする。効果の高かった制御に高い得点(報酬)を与えるアルゴリズムを用い、最適なアクティブ制御ルールを試行錯誤学習によって自動的に獲得する。
 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週火・木曜日掲載)