エムシーディースリー株式会社 発足
より上流から、建設業界の課題に対応  三菱商事系の事業会社3社(MCデータプラス、インダストリー・ワン、エムシーデジタル)が合併し、7月1日付でエムシーディースリー(東京都渋谷区、飯田正生社長)が発足した。建設サイト・シリーズ(グリーンサイト、ワークサイトなど)を中心に建設業向けに提供してきたサービスに引き続き取り組みながら、コンサルティングやAIソリューション開発で培ってきた知見を生かし、より上流から業界の課題に対応する活動を展開する。飯田社長のインタビューとサービス概況の説明を通じて、今後の事業展開の方向性を示す機会とする。
(写真、図表はエムシーディースリー提供)

Interview 
代表取締役社長 飯田 正生

―3社が合併した意義をどう捉えている。  「デジタル化やAI化は不可逆的に進んでいく。対象とする範囲も広がっていくだろう。建設業界を取り巻く環境も一段と複雑化している。その中でMCデータプラスが建設サイト・シリーズ(グリーンサイト、ワークサイトなど)として建設業界向けに提供してきたサービスも、より上流から対応して幅広く展開することが必要になってきていると感じている。業界が抱える課題を解決するために、デジタルの知見を生かしたコンサルティングを手掛けてきたインダストリー・ワン、AIソリューションを開発・提供してきたエムシーデジタルの3社が合併することによって、グリーンサイトなど既存事業との首尾一貫したサービスが提供できると考えた」

―新会社での活動はどう展開する。  「7月1日付で合併新会社が発足して以降も、各社がそれぞれの既存領域で展開してきた事業を継続できるようにカンパニー制を導入した。具体的にはMCデータプラスをデジタルプロダクトカンパニー、インダストリー・ワンを事業共創カンパニー、エムシーデジタルをAI事業カンパニーが引き継いでいる。これまで構築してきた既存領域を縦軸としながら、各カンパニーの活動に横串を刺すことによって新しい価値を生み出していきたい」


3社合併の概念図


―建設業向けのサービスにAIを取り込むことでどのようなことが可能となるのか。  「個社の基幹システムを開発する取り組みがある一方で、MCデータプラスはSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)として業界で標準化できる領域を対象に事業を手掛けてきた。標準化はデジタルの特性を生かせる領域だが、それだけで解決できない個社単位の課題も存在する。デジタルで対応しきれない課題でもAIを使えば、人に代わって処理できることも多い。グリーンサイトには利用する顧客がデータを入力したり、チェックしたりするプロセスがある。そうした作業をAIが代行するようになれば、その分の負担を減らすことができる」
 「業務を切り分けると、ソフトウエアで対応できる部分と、人の手によって運用する部分の二層に分かれる。人が運用する部分をAIで対応する部分に切り分ければ、三層に分類することができる。ソフトウエアとAIが対応する部分を増やしていけば、それだけ人による対応が少なくなり、業務負担が減る。今回の3社合併は、デジタルやAIの開発スピードが予想以上に加速している状況を見極めて決断した面もある」




―AIを活用したサービスの具体的なイメージを知りたい。  「建設サイト・シリーズを展開してきたことで、今では12万社を超える建設企業を顧客に持つまでに至った。AI開発を手掛ける企業と合併した今後は、AIで各種課題を解決するサービスを提供することがこれまで以上に可能になる。元請、協力会社でも抱える課題や悩みは違う。例えば、AIを使うことで議事録作成も相当早くできる。AIに建設業界特有の専門的な事項を学習させることによって、議事の内容を聞きながら、論点や結論を分かりやすくまとめることができるようになると思う」

―今後の展望を。  「取り組んでみたいことはたくさんある。AIが自らプログラミングできるようになれば、ソフトウエアの開発も高度化できる。業界の課題を解決するために当社がAI人材を抱えていることに期待を持っていただきたい。AIによるチェック機能を組み込むことができれば、グリーンサイトなど既存サービスの信頼度も高まると思う。AIが人の業務を代替することで、サービスの質、スピードを向上させ、これまで以上に建設業界に貢献できる会社でありたい。建設業界に喜んでいただけるサービスを提供できるように、業界のニーズを聞かせていただきながら、一緒に活動を進めていきたい。当社主催のユーザーミーティングや営業活動の中で業界の声を積極的に聞いていく。そして、三つのカンパニーがそれぞれ活動しながら、シナジーを一段と発揮できるような組織体制を構築していきたい」


サービス概況

 建設サイト・シリーズは2024年度、次の通りにアップデートした。労務安全書類の作成・管理サービス「グリーンサイト」では、元請によるチェック業務の負担を軽減するため、再下請通知書の記載の不備や添付書類の漏れを自動検知し、協力会社が提出する前にセルフチェックする機能を強化。生産性向上の観点で国土交通省のコンパクトな施工体系図形式を追加し、印刷枚数を削減できるようにもした。
 協力会社の書類作成の負担軽減、操作性の改善にも取り組んだ。通門管理に建設キャリアアップシステム(CCUS)カードリーダーのiPhone対応デバイス追加など多様な現場ニーズに対応できるようにした。
建設現場の施工管理サービス「ワークサイト」については、▽作業登録効率化▽安全管理の高度化▽関連業務の効率化―をテーマに対応機能の追加に取り組んだ。IDを持っていない職長も現場に入場する際に即座にID発行できるようにするほか、日々のKY活動をスマートフォン、タブレット、パソコンで実施できるようにした。
 グリーンサイトに登録した役割・資格情報と連動することによる作業登録の効率化などに加えて、複数の元請職員で作業登録の確認を行えるようにするなど大規模現場に対応した機能、さらに建退共へのデータ連携も検討していく。
 独自資格保有者管理サービス「スキルマップサイト」では、CCUSにおける4段階の技能者レベルに応じた手当金算出の機能も検討している。

 今後の展開について。▽データの一元管理▽現場のデジタル化によるデータ集積▽集積されたデータの可視化▽新たな価値の創出に向けたデータ連携▽高度なデータ活用―の各ステップで現場への貢献を目指す。グリーンサイトの利用によって真正性・一意性を担保したマスタデータを確保することができ、そのデータをもとに通門管理・ワークサイトといったサービスを活用いただくことで、データの可視化・データ連携といった後半のステップにおいて「業務プロセス変革による生産性向上」につながるメリットを提供できる。外部システムとのデータ連携では、既に連携しているGHG排出量算定・可視化サービスのほか、チャット、施工管理、工程管理等のアプリやサービスとの連携も予定している。
また、「高度なデータ活用」というステップでは、今回の合併を契機にAIを活用したお客様の業務負荷軽減やさらなる生産性向上に取り組んでいく。



導入実績

 建設サイト・シリーズを利用している元請企業数は12万社を超え、登録されている技能者数は277万人に達している。
 現場の入退場記録を蓄積する通門管理機能も利用現場が増え、1万現場を突破した。これに伴い、CCUSの就業履歴を蓄積するタッチ数も伸長している。
 建設現場の作業間連絡調整業務をデジタル化するワークサイトの利用は50社、2,000現場を超えた。今後は、利用企業数の拡大だけではなく、現場での利用定着を追求する活動にも力を入れてサービス拡充に取り組んでいく。