アウロステクノロジーズ(石川県白山市、内田大剛 CEO〈最高経営責任者〉)は、プラズマ表面改質技術を生かして開発した「APLASシート工法」の普及に力を入れている。老朽化したコンクリート構造物を炭素繊維で補強する同工法は、類似工法に比べて現場での施工の手間が掛からず、耐久性を一段と向上させる効果も期待できる。市町村が管理する中小規模の橋梁の床版下面や桁端部を照準に実績拡大を目指す。
同工法を用いた橋梁補強工事では、床版下面のコンクリート表面をはつった後、不陸調整を兼ねて専用の接着剤を塗布し、対象部分にシートを格子状に貼り付けて完了する。現地で炭素繊維に樹脂を塗り固める従来工法での工程が一部不要となり、施工時間を40%程度削減できる。
APLASシートは、炭素繊維熱可塑性樹脂(CFRTP)を基材に、同社のコア技術であるプラズマ表面改質技術によって高接着性を実現し、その効果を長期間保持する。さらに、接着剤で補強対象に貼り付けた際にも優れた密着性を発揮する点が特長だ。厚さは0.25ミリ程度と薄く、ロール状の保管や重ね継手施工が可能となるほか、ハンチ程度の傾斜であれば、構造物の形状に合わせて施工できる。シートに樹脂を含浸させることで、従来工法に要した工程を省き「直接工事費を10%程度削減できると試算している」(和田倫明 VP of Engineering〈技術部門マネジメント責任者〉)という。
量産体制を整え、6月から販売活動を開始するのに先だって同社は、石川県珠洲市の市道406号線に架かる建設後45年が経過した山田橋(馬緤町、橋長6.4メートル、幅員5メートル)の補強を実施。1月に工事が完了し、1号実績案件となった。能登半島地震(2024年1月)で被災した同市の担当者は、「迅速かつ的確な山田橋の長寿命化工事のおかげで、市民が安心して安全に暮らせるようになった」と評価する。同社は今後も同橋での導入効果を追跡で把握していく考えだ。さらに、この工法は同様の補強効果が見込める上、日中の施工も可能という特長を生かし、鉄道駅ホーム床版での補強工事にも導入されている。
山田橋のように市町村が管理する中小規模の橋梁を主ターゲットに据えて、設計を行う建設コンサルタント会社やゼネコンなどに営業活動を展開しており、同工法への関心が高まっている。
なお、この技術は国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)への登録(KK-240024-A)が完了している。また、シートは高速道路会社が定める補強材料としての品質規格を満たしており、技術的な裏付けを持って全国での販売活動を推進している。直販に加え、各地に代理店を設けた販売網も構築していきたいとする。近く鋼材の補強にも適用範囲を拡大する予定だ。
老朽化が進む社会インフラの維持管理はいまや全国的な課題となっている。人件費の上昇、熟練した職人の不足、限られた財源などの制約が顕在化する中で、効率的な施工体制の確立が求められている。現行工法に比べて施工が容易とされる同工法は、直接工事費の抑制への寄与のほか、工期短縮による現場の負担軽減にも効果を示すとして、業界から注目されている。
海外のインフラ維持管理でも需要が見込めるとして同社は、フランス・パリで来年開かれる複合材料の世界的な展示会「JEC World」への参加も予定している。欧州に加え、北米、中国での展開も視野に入れている。また、12月3~5日に東京都江東区の東京ビッグサイトで開催する「先端技術材料展2025」にも出展し、APLASシートの実物を展示するほか、同社の活動を広く紹介する。
炭素繊維熱可塑性樹脂(CFRTP)に高接着性を付与したAPLASシート
APLASシート工法による補強工事後の山田橋
アウロステクノロジーズ合同会社