BIMのその先を目指して・56/樋口一希/大和ハウス工業のBIM運用・3

2018年6月14日 トップニュース

文字サイズ

 大和ハウス工業の設計から施工まで連環する「一気通貫BIM」の実施事例とワークフロー研修・BIMインターンシップなどの人材教育について報告する。

 □建築主にBIM適用案件とする理解を得た上でBIM推進チームを編成し多岐にわたる検証実施□

 本格的なBIM導入に向けて策定したロードマップの検証と補強のために「一気通貫BIM」を実践したのは、自動車部品メーカーの技術棟新築工事であった。
 実施に際しては、設計と施工担当からなるBIM推進チームを編成し、伊藤久晴氏(BIM推進部BIM標準推進グループ長)が統括BIMマネージャーを務めた。意匠設計担当がBIMマネージャーを兼務し、BIM推進部がフォローする形で、意匠、構造、設備、見積もり担当の技術者が参集してBIMを実践する。施工では、施工担当が2週間の事前トレーニングを受けて施工BIMマネージャーを兼務し、工事、設備、工場担当が協働した。
 建築主には受注段階で「BIM+ZEB」の利点をプレゼンテーションしてBIM適用案件とする理解を得た上で多岐にわたる検証を行っている。既設の工場の改修工事部分では点群データ化してBIMモデルと統合、納まり検討して再設置した。太陽光の影響を可視化してブラインド設置箇所を検討、室内の熱環境を解析するなどBIMモデルを用いた各種シミュレーションも行っている。

 □製造業のデジタル運用の利点であるDFMAの取り込みで「一気通貫BIM」は更なる進化□

 ロードマップ策定時に想定した課題と解決策の検証も実現した。基礎工事ではフロントローディングによる手戻りなしの成果が明らかになった反面、鉄骨工事では当初の仕様決定の曖昧さが手戻り発生の要因となるとの共通認識も得られた。「一気通貫BIM」の完遂においては統合モデルによる干渉チェックなどを行うコーディネーションミーティングが最重要となるとの確証も得られた。
 施工現場にはiPadを配備し、施工BIMモデルを活用した。作業所に戻らなくとも、その場で確認事項が協議できるし、2次元図面ではわかりにくい納まりなども即座に判断できると現場の所長もBIMの有効性を理解しBIM推進派に変わっていった。
 大和ハウス工業の「一気通貫BIM」がユニークなのは、設計から施工へと連環する中に『工場』というピースがあることだ。出自とする住宅メーカーとして培ってきたシステム化されたものづくりを広く建築に援用する。製造業でのデジタル運用の利点であるDFMA(Design For Manufacture and Assembly=製造・組み立て容易性設計)も視野に入れ「一気通貫BIM」は進化を続けていく。

 □モデル作成から干渉チェックによるモデル統合まで行い、プレゼンで「できるBIM」を確認□

 CADオペレータは存在するがBIMオペレータは存在しない。単なる作業ツールではないBIMを駆使できる人材育成は急務であり、困難も伴う。1泊2日で行うワークフロー研修が成果を上げている。意匠、構造、設備、BIM推進マネージャーの4人構成で4チームが参加、1日目は持参の図面を基にBIMソフト「Revit」でモデル作成する。2日目はコーディネーションミーティングで干渉チェックし、駄目出しし合いながら統合モデルを完成させる。最後は担当セクションの部長職を対象にプレゼンテーションして「できるBIM」を共有する。
 17年11月29日~12月1日にはBIMインターンシップを行い、5大学7人が参加した。「Revit」の講義から始まりモデル作成、意匠、構造、設備図面の作成、現場見学も実施した。学生ともども、「できるBIM」を実感する中で、半数以上の学生がBIM推進部への就職を希望していると語った。
 教育機関でもBIM教育は拡がりつつあるが入社すると作業としてのCAD(作図)に追い立てられる。建築士の製図試験は手描きというブラックジョークもそのままだ。BIM普及は産学全体を挙げて待ったなしの状況なのを再確認すべき節目を迎えている。
 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)