BIMの課題と可能性・16/樋口一希/二つの領域にまたがる新しい職能・3

2014年5月15日 トップニュース

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 建築とコンピュータの二つの領域に跨がり、ユニークな活動を続けているBIM LABOのミッション「伝える」「創る」の現況を報告したが、ここでは「育てる」「開発する」の実際について報告する。


 □設計者を目指す若手がBIMの実務に参画 これからの「育てる」=BIM教育を先取り□

 BIM LABOを訪問した際に、2人の若者を紹介された。彼らは建築系の教育機関を今春卒業し、BIM LABOにアルバイトとして参加していた。

 BIM LABOの2名の構成員は中央工学校OSAKAで講師を務め、1名はAutoCAD、もう1名はArchiCADの授業を担当している。学生たちは在学中にBIMの基礎を学び、その中にはアルバイトとしてBIM LABOで実務を経験し、実践的なBIMトレーニングを受ける者もいる。

 建築の教育現場でのデジタルツールの普及は、3次元プレゼンツールや2次元CADシステムについては一巡したが、BIMについてはこれからだ。

 建築教育の実学の側面からすると、学生の受け皿として産業側の動向は無視できない。今後は、BIMに精通した学生への需要も高まるだろう。その意味でBIM LABOは建築教育における、これからの「育てる」を先取りしている。


 □3次元モデルへの2次元図面(モデル)の内包でどのような2次元図面も作成可能□

 画面上の3次元建物モデルの一部が開かれ、内部に青くハイライト表示された梁がある。それをクリックすると、瞬時に画面が切り替わり、2次元図面が現れた。鉄骨の製作業者に提供する詳細な「製作図」だった。BIM LABOのミッション「開発する」の事例のひとつだ。

 取材当初は、依然として建築工程の中を流通しているのは、建築内部だけの「符牒」としての2次元図面であると、意図して否定的なニュアンスで現状を報告した。取材を進めるに従い、BIMによる建物の3次元モデルと2次元図面を適材適所的に使い分ける、日本的BIMの有効性が見えてきた。

 言葉を替えれば、2次元の図面データ(モデル)も内包したBIMの3次元建物モデルを創ればよいわけで、それによってBIM LABOがミッション「開発する」で実践しているように、3次元建物モデルから、自在に、どのような2次元図面も作成できることになる。


 □多岐にわたる業務領域を有機的に組み合わせ、多様化・高度化するデジタル化ニーズに対応□

 BIM LABOの四つのミッション「伝える」「創る」「育てる」「開発する」をより現実的な日々のビジネス面から捉えてみる。

 独立した設計事務所としてコンペにも積極的に参加しているし、訪問時には、ある保育園のリノベーション、再設計を行っていた。

 大手ゼネコンのBIM部門からはデータ入力を受託している。その際に能力を発揮するのが若手と先輩社員との連携チームだ。比較的規模の小さな建設会社の設計部とはBIMを用いて実施設計までも共同している。

 梁の製作図作成プログラムのように、BIMに特化した建築系のシステムハウスとして受託開発業務も行っている。その他に、BIM LABOとしてのPRも兼ねた書籍執筆、ソフト・ベンダーからの要請によるセミナー企画なども行っている。そして、これら多岐にわたる活動のベースを貫いているのが、BIMへの果敢な挑戦である。

 次回は、さまざまなデジタルツールを駆使してビジネス展開している香月真大建築設計事務所について報告する。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)