BIMの課題と可能性・138/樋口一希/奥村組の「初めての施工BIM」・1

2016年12月15日 トップニュース

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 1年余の短期間でBIM運用の基盤を整備した奥村組。施工中も含めて全15案件について同社情報システム部BIM推進グループの脇田明幸グループ長と日野元氏に行ったヒアリングを通して同社の取り組みを報告する。


 □設計施工でのBIM運用を最終目標としつつ、できるところから着手して運用成果を顕在化させる□


 社内でのBIM推進の機運を盛り上げ、運用を加速化したいので、関連動向について情報提供してほしいとの要請を受け奥村組本社(大阪市阿倍野区)を訪ねたのは3月25日のことだった。後発組だと謙遜しつつも、10月14日には日本建設業連合会「施工BIM事例発表会2016」における講演「鉄骨・設備工事のBIM活用-はじめての施工BIM」で成果を公表した。情報提供が役立ったのであればBIMの応援団冥利に尽きる。

 短期間で成果を上げるに至った背景には、ゼネコンとして設計施工でのBIM運用が最終目標との認識を持ちながらも、導入効果が顕在化しやすい領域に的を絞るという現実策があった。具体的には、建築主、関係者に対して「見える化」で貢献する(狭義の)BIMの3次元モデリング機能から運用を開始し、徐々に(広義の)BIMのInformation=情報活用へと進捗させる施策だ。


 □他社設計でありデザイン的にも3次元モデル化に困難が伴う総合病院のモデリングを実践□


 工事が進む奈良県総合医療センター新築工事(地方独立行政法人奈良県立病院機構)。免震構造を採用した延べ床面積約6万4000平方メートル、地下1階地上7階建てのS造・一部SRC造。現場所長からBIM採用の打診があった初めての物件であり、BIM推進グループとしては期待に応えるべく成功が絶対条件となった。

 直面した課題は、他社設計のため設計から施工BIMモデルへとデジタル援用できず、加えて、大規模で複雑な建物形状をいかにして3次元モデル化し、工事所で共有するかであった。

 奥村組は、ゼネコン、設計事務所、ハード・ソフトベンダーなどが参加するJ-BIM研究会で活動を続けている。それらの経緯から、多様なBIMソフト検証も目指して、本案件では、BIMソフト「GLOOBE」(福井コンピュータアーキテクト)を活用して設計図面を基にモデル化している。

 工事所では、BIMに関する説明や講習を行い、活用を図った。特に建築主への見える化が効果大なのを実感した現場所長は、次回は本格的に施工BIMを運用したいとの期待も強めた。


 □3次元モデルでのウォークスルーで関係者の合意を形成しモックアップ製作のリスク回避□


 関係者が多岐にわたり、日々、生命に関わる医療行為が行われる医療施設。電子カルテの普及で、ネットワーク機器の集積度は上がり、機器類のメンテナンス期間も短くなっている。動線や可動域の確認にしても、他の建築物とは異なる専門的かつ細心の配慮が求められる。そのためモデルルームを設定し、リアルなモックアップを製造するケースもあるが本事例では3次元モデルによるウォークスルーなどを活用している。

 モックアップでは、ひと部屋分の確認に終止するし、変更対応には、多大な時間もコストも要する。使用資材などはリアルな見本で確認してもらい、要望に応じて、自由自在にウォークスルーで歩き回ってもらえば良い。「初めての施工BIM」に着手し、できるところから成果を上げつつあるBIM運用の経験は社内で共有され、次への模索が始まっている。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)