技・人づくり専門工事業ファイル・13/東京都左官職組合連合会

2018年5月8日 トップニュース

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 ◇技能の「見える化」へ効能数値化/職人の原点は正しい施工

 東京都左官職組合連合会(東左職連、石川隆司会長)は、工学院大学の田村雅紀教授と共同でしっくいやけい藻土が室内環境に及ぼす効果の数値化を試みた。左官業界の将来を模索する中で、「技能の『見える化』が必要だろうと考えたのが発端となった」と石川会長は語り、一定の効果が見られた調査結果を需要拡大につなげるためにも、業界全体で技能の底上げを図る必要性を訴える。
 S造やRC造など比較的規模の大きな野丁場での左官工事費は、1975年時点で建築工事全体の15%前後を占めていたが、今では0・5%前後にまで落ち込んでいる。材料・施工が安価で、施工性にも優れた住宅内壁の乾式化が進んだことが大きな要因だ。
 東左職連はこうした現状を憂い、2年ほど前から打開策を検討。その中で健康に負荷をかけない建築材料へのニーズの高まりを踏まえ、左官の効能を示す資料作りに取り組もうと、田村教授に呼び掛けて「左官材料を中心とした住宅壁材における性能比較調査」を共同で実施。VOC(揮発性有機化合物)除去、調湿性能、防音効果などの測定結果を3月に都内で開かれたセミナーで披露した。
 石川会長は、今回の調査結果を受け、全国に800万戸以上あるとされる空き家や、毎年100万戸近くが建設され続けてきた住宅ストックのリニューアル需要に応えていきたいと意欲を示す。特に室内の空気環境を改善する効果については、「『今は空気清浄機があるので大丈夫』との指摘もあるが、しっくい塗り壁と併用してもらえれば、室内環境はもっと良くなる」と提案する。
 石川会長は今回の研究成果に満足しているわけではない。「幅広く、深い成果をもっと追求していく必要がある」とし、さらに先を見据えた研究を続けていきたいとする。
 加えて成果を出すだけでなく、左官業界が負うべき社会的責任を果たすためにも、「技能の平準化に取り組み、誰がいつ施工しても同じものが得られるようにしなければ」と強調。施工する職人によって仕上がりに差が出るようでは、左官業界が目指すしっくい材料のJIS化も難しくなると、業界全体で技能の底上げを図る努力が不可欠だとする。
 国土交通省は業界の要望を受け、18年版「公共建築工事標準仕様書」の左官工事の章に「しっくり塗り仕上げ」の項目を半世紀ぶりに復活させる考えだ。これにならい自治体仕様書にも同様の項目が盛り込まれれば、左官需要が再び拡大する可能性も出てくる。
 仕様書への記述復活で低迷する需要の反転により、職人が腕を磨く機会が増えると、結果として入職者の増加につながることも考えられる。
 東左職連では、若手で構成する青年部組織の平成会が定期的に技能研修会を催し、表面仕上げの「研ぎ出し」「洗い出し」などの習得などにも努めている。こうした若手主導の取り組みに期待を寄せながら石川会長は、需要に対応して「もう一度職人の原点に戻って正しい施工を心掛けられるようにしなければならない」と力説する。