台風19号-建設コンサルの挑戦・上/人材集中投入、通常業務にしわ寄せも

2019年11月3日 トップニュース

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 ◇発注者の柔軟な対応不可欠
 東日本を中心に甚大な被害をもたらした10月の台風19号を受け、建設コンサルタント各社は対応に追われる。手持ちの業務を一時中止し災害対応の関連業務にシフトしている状況で、通常業務への影響や働き方改革との両立で危機感を抱く企業は少なくない。社会的な使命を果たしながら、長年の懸案事項にどう対処していくのか。そのキーポイントは人材確保と生産性向上と言え、発注者の柔軟な対応も不可欠だろう。建コン業界の現状を追う。
 台風19号は東日本を中心とした広いエリアで猛威を振るった。調査や計画立案、設計など復旧・復興事業に欠かせない業務に対応するため、国土交通省は各地方整備局や地方自治体などに発注済み業務の一時中止を通達した。さらに長時間労働を認める労働基準法33条も適用。行政機関と歩調を合わせ、建コン各社も最優先で関連作業に当たっている。
 最大手の日本工営は国や県から要請を受け、河川や道路で災害査定の支援を進めている。人材不足を補完するため、西日本を中心とした各支社からも技術者を派遣。年内には予算措置に必要な災害査定を終える見通しとしている。河川分野を得意とする建設技術研究所をはじめ、他社も一時中止を含め発注機関との対応を協議。優先して災害対応に着手できる環境づくりを進めている。
 パシフィックコンサルタンツは必要に応じて発注者に対して納期延期を申請したり、2018年7月豪雨の教訓を生かし不急の業務の納期延期を発注者に求めたりしている。長大も他の拠点から人材を投入。テレビ会議システムを活用し、意思決定の迅速化に努めている。同社は通常業務の一時中止が認められない場合、その業務を担当する技術者を災害対応チームから外すなどして納期への影響を最小限に抑えているという。
 測量大手のパスコは、台風上陸の前から測量業務に使用する航空機などの機材を準備し被災状況をいち早くキャッチ。各支社から社員を派遣し対応を図った。現在は復興計画で必要となる浸水エリアや家屋など被害状況の把握に努めている。
 発災から1カ月超が経過し、各社からは災害対応の難しさを指摘する声が相次いでいる。関東エリアで災害対応に当たる企業の担当者は「被災地以外の発注機関から通常業務の納期を厳命された」と語る。人材を重点的に投入し災害対応を行うとなれば、少なからず通常業務にしわ寄せは行く。
 災害査定に従事する技術者も国の迅速な対応を評価しつつ「発注者に業務中止を言い出しにくい雰囲気がある」と内情を吐露。特に県や市町村などの基礎自治体に「その傾向が強い」という。
 建設コンサルタンツ協会(建コン協、高野登会長)は、国交省の各地方整備局ら発注機関との意見交換で既往業務の中止命令や納期の延期などを提案。管理技術者の交代要件緩和にも言及し要望活動を展開しているが、「自治体への浸透は道半ば」(大手建設コンサル幹部)の状態が続く。
 4月に施行された働き方改革関連法に伴い、時間外労働の罰則付き上限規制の適用を受ける建コン各社。災害対応と残業時間の削減との両立が悩みの種となっている。災害対応に奔走する一方で、発注者に対し通常業務の履行期限延長など柔軟な対応を求める声は日に日に強くなっている。
 (次回から3面に掲載します)