JAPICの緊急提言から・7/住民が安全に暮らすためには

2021年3月26日 トップニュース

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 ◇電気室などを上階設置するインセンティブを

 近年、気候変動による水害が、河川流域の広域で大きな影響を与えるようになってきた。荒川や利根川、江戸川の下流に位置している首都圏でも、さまざまな問題が顕在化してきている。2019年東日本台風の際、荒川下流部の岩淵水門付近では荒川の水位が隅田川、新河岸川の堤防や東京都北区の地盤高よりも高くなり、岩淵水門が無ければ、堤防を越水して大規模な外水氾濫が発生する危険性が極めて高い状況となっていた。

 台風の際には、一部の中高層建築物の電気室・機械室が水没したため電気系統が使えなくなり、長期間にわたり居住・使用できなくなる事態が発生。水害等に対する都市・住宅の脆弱(ぜいじゃく)性が露呈し、社会問題化したことも記憶に新しい。被災した建物が立地するエリアの一部では、デベロッパーなどが開発時に浸水リスク・想定被害を勘案する際に依拠する、いわゆる内水氾濫のハザードマップなどが公表されていなかったことも判明している。

 風水害による社会・経済活動などへの影響を抑えるためには、流域治水の一連の活動として、東京など経済活動の集積拠点での都市・住宅の強靱化が必要であることは論をまたない。東京では荒川・江戸川の氾濫時に、浸水深50センチ以上となる期間が2週間以上と予測されているエリアが、城東地域に広範に存在している。こうした地域を可能な限り解消し、災害時に建築物が居住・活動空間として自立し続けることは行政の負担軽減、地域への貢献につながり、社会的な意義も大きい。

 不動産協会は青山〓(にんべんに八の下に月)元東京都副知事、筑波大学の有田智一教授、東京大学の加藤孝明教授の有識者に加えて国土交通省にもオブザーバーとして参加していただき、昨年5月に「水害等の災害に備えるための都市・住宅の強靱化研究会」の報告書をまとめた。デベロッパーの会員では、水災など被災への対応策をさまざまに工夫している事例も多く見られた。本研究会ではそれらの事例も踏まえて、開発者、管理組合などの管理者、近隣住民、行政のステークホルダーごとに課題を抽出した上で、それぞれに自助努力を行い「安全のシェア」の精神で連係を強化することが肝要であるとした。

 デベロッパーなどの開発者には、開発計画策定時に道路・隣地から水が敷地内に流入しないよう、土盛り、防水板等で水の流入を防ぐ立ち上り(水防ライン)の見直しや強化、機械室の水密化など、想定浸水深を考慮したライフライン設備の設置位置の配慮を求めた。行政に対しては下水道インフラ整備の推進、ハザード情報の全面的で早急な作成と公開、電気室・機械室等を地下ではなく地上階より上部に設置する場合の容積率緩和措置などのインセンティブ付与などが望ましいと提案した。

 防災に対する国民の意識が一層高まる中、このような形で、各主体の連携強化・協力による共助を進めつつ、行政が公益性のある強靭化支援策をスピーディーかつ積極的に後押しすることが肝要と考える。これらにより安全・安心な住宅を提供することで、内需の柱である住宅投資を活性化させるとともに、老朽化した建築物の更新や内水氾濫防止のための下水道の強靱化等も含んだ、街づくり全体におけるインフラ整備と言った新たな投資の拡大も期待できる。

 官民が知恵を出し合って総力戦で臨むため、民間の自助努力はもちろん、行政も公益性のある強靱化支援策の実現に向けた一層の尽力をお願いしたい。