JAPIC提言プロジェクト・10/下関北九州道路の早期事業化

2022年7月19日 トップニュース

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 ◇下関北九州道路の早期事業化
 九州と本州の玄関口、北九州市と山口県下関市を新たに結ぶ「下関北九州道路」の整備構想。1958年に開通した国道2号の「関門トンネル」、73年に開通した高速道路の「関門橋」に次いで三つ目となる関門海峡の横断道路に当たる。
 九州・本州間の連絡が途絶える影響は計り知れない。建設省(現国土交通省)は98年3月に決定した第5次全国総合開発計画で海峡横断プロジェクトの一つとして調査に乗りだした。財政難などで2008年にいったん凍結されたものの、地元の要望や関門トンネルと関門橋の老朽化を踏まえ、17年度に調査を再開した。
 20年12月、社会資本整備審議会(社整審、国交相の諮問機関)道路分科会の中国・九州地方合同委員会は「集落・市街地回避ルート」として彦島(下関市)~日明(北九州市小倉北区)を橋梁で結ぶことを承認した。延長は約8キロ。このうち海峡部の約2・2キロはつり橋を想定。4車線での概算整備費は約2900億~3500億円を見込む。
 現在は国交省が関係自治体と連携し、環境影響評価(環境アセス)や都市計画の手続きを並行しながら進めている。事業スケジュールは未定だ。日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)国土・未来プロジェクト研究会(藤本貴也委員長)は早期の事業化を実現する観点から、「国土造りプロジェクト構想10」として下関北九州道路の事業手法や技術戦略を提言した。
 事業手法としてはPPPや設計・施工一括(DB)、施工予定者が設計を支援するECIを列挙し、川上の計画・設計段階から工期短縮やコスト縮減、品質向上に役立つ新技術の積極導入を促進。世界最高水準の技術を適用する実績を作ることにより、世界各国の長大橋プロジェクトでインフラシステムの輸出も後押しできると期待している。
 具体的に採用すべきと考える材料や工法も例示。材料は供用後の維持管理コスト低減も見越し、腐食の進行を和らげる塗装剤や環境配慮型コンクリート、世界最高級強度のケーブルなどを挙げた。工法ではつり橋主塔をブロック部材、主塔外周をパネル部材として急速施工するやり方を紹介した。
 資金確保に関しては、公共事業と有料道路事業を組み合わせた「合併施行方式」を提言。背景には同研究会が試算した下関北九州道路の通行料収支がある。国が想定する3000億円前後の総事業費に対し、料金収入は年約23億円、維持管理費などは同約5億円となり差し引き同約18億円の収支にとどまる。合併施行方式を含め官民連携による資金確保方策も検討すべきと提唱した。
 利穂吉彦チームリーダー(鹿島)は、下関北九州道路の早期事業化に向け「関門海峡両岸地域の高い発展ポテンシャルに関する理解の促進や新技術の積極導入、橋梁インフラの観光資源化など、官民連携の促進を図るべきだ」と訴える。