BIMのその先を目指して・88/樋口一希/久米設計のBIM推進策・2

2019年2月21日 トップニュース

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 設備分野の設計者を中心としたBIM普及策を通じて組織面的な側面から久米設計のBIM運用状況を報告する。

 □BIMの必要性を感じていない設備設計者(Non-BIMユーザー)をBIMワークフローに取り込む□

 施工段階においては、設備系BIMソフトを用いて設備機器や配管などを3次元モデルとして構築するケースが増えているが、設備設計では実施設計段階においても多くの場合、BIMは用いず系統図レベルでの設計表記となっている。日常的にBIMの必要性を感じていない設備設計者にBIMを使ってもらうのは至難の業だ。
 一方で設備設計者にも、BIMによる情報の見える化効果や建築情報(BIMのI=Information)の集約や連動メリットへの認知は進みつつある。古川智之氏(久米設計設計本部第2医療福祉設計部主査)と若手設備設計者による開発チームは設備設計者へやみくもにBIMソフトの使用を押し付けるのではなく、アプローチの手法を変えることで、彼らを広義でのBIMのワークフロー内に取り込む施策を講じた。
 設備設計者のデジタル運用をみると、表計算プログラムのエクセルは日常的に使用している。最も親しんでいるエクセルの使用環境(インターフェース)から設備BIM(BIMのI=Information)へとアクセスする方法を試行した。その結果、BIMソフト「Revit」を触ったことのない設備設計者でも、エクセルのみの操作でRevit内のBIM情報を活用・連動できる一連のアドインプログラムを開発した。

 □BIM普及のためアーリー・アドプターとアーリー・マジョリティーの間の深い溝を埋める□

 Non-BIMユーザー問題を考察する際に古川智之氏が参考とした書籍がある。ハイテクマーケティングのバイブルとして知られるJeffrey Moore(ジェフリー・ムーア)著の「キャズム(深い溝)=原題:Crossing the Chasm:Marketing and Selling High-Tech Products to Mainstream Customers」だ。
 市場(組織と置き換えてみる)は、イノベーター(innovators)=実用性よりも新技術が好きな人々からラガード(laggards)=新技術を最後まで取り入れない人々までによって構成される。製品(BIM)普及のためには、特に、前述した二つの属性間に位置する、アーリー・アドプター(early adopters)とアーリー・マジョリティー(early majority)の間の深い溝(キャズム)を乗り越えられるかどうかが最大の要諦となる。この深い溝(キャズム)を埋めるため、Non-BIMユーザーを広義でのBIMユーザーとする施策をとった。

 □Non-BIMユーザーのためのBIMソフト「Revit」のアドインとして稼働する連携プログラム□

 意匠設計者は、BIMで対象建物の建築情報を入力していくが、BIMソフト「Revit」側のアドインでは、それらの情報を指定の諸元表フォーマットに即して出力することができる。設計の進行にあたっては部屋が増える、部屋名称が変わるといった変更は日常茶飯事だが、アドインはその差分を自動的に見つけ、色分けをして設計者に伝える。一方で設備設計者は、エクセルで設備情報を入力して諸元表のフォーマットを埋めるが、それら設備情報はエクセル側アドインのボタン一つでBIMデータ内へとフィードバックされる。さらに設備設計者は諸元表の入力情報に基づいた各種色分けゾーニング図をエクセルから出力することも可能だ。
 意匠設計者が入力したBIM内部には、各諸室の仕上げ、面積、仕様などの建築情報(I=Information)が収納されている。設備設計者は、日頃から慣れ親しんでいるエクセルからアドインプログラムを介して、設備BIMを操作することもなく、対象建物のBIMデータに触れ、設備設計に必要とされる領域の編集、更新が可能となる。
 童話「北風と太陽」。北風のように上から目線でBIMを押し付けるのではなく、太陽のようにBIMの側から運用の枠組みを変え、近づいていく施策をとった。
 ※前回の連載第87回(14日付10面)で使用した図版は日本建設業連合会『施工BIMのすすめ』より筆者転載。
 (毎週木曜日掲載) 〈アーキネットジャパン事務局〉