JAPICの提言・1/生かせ!ダム群のポテンシャル/異常渇水補給で水田を守る

2026年3月2日 JAPICの提言

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 北上川の支流・江合川の上流にある鳴子ダム(宮城県大崎市)。有名な鳴子温泉郷から車で数分のところに位置し、1957年に完成した同ダムは、国内初の日本人技術者だけで建設した多目的ダムとしても知られている。昨年7月末、このダムで異常事態が発生した。同6~8月期の総雨量が直近30年で最小となる219ミリを記録。同7月29日にはダム貯水位が利水・洪水調節に有効に使える水位の限界点である標高231メートルを下回った。
 7月下旬から8月にかけて下流の水田では1年のうち最も水を必要とする出穂期を迎える。このため、ダムを管理する東北地方整備局は関係利水者から同意を得て、最低水位以下の貯留水を使用する緊急的な手段「異常渇水補給」を実施。切れ目なく下流に水を補給し続け、その総量は計2500万立方メートルに達した。これは東京ドーム約21杯分に相当する。さらに支川上流にある岩堂沢(宮城県管理、農業用ダム)も水利権の変更申請の許可を受け、取水量や年間総取水量を増量して放流し、この二つのダムが連携して下流一帯の水田の被害を防いだ。
 同9月、下流の大崎土地改良区の幹部は東北整備局を訪ね、かんがい用水を補給し続けたことに対し「鳴子ダムがなければ大変なことになっていた。大崎耕土約1万ヘクタールの水田で100億円を超える損失(想定被害額)を防いでくれた」と感謝の意を述べた。
 気候変動による異常気象はこれまで、毎年のように全国各地で豪雨災害を引き起こしてきた。ただ、その被害は水害にとどまらず、渇水にも広がりつつある。猛暑が続き少雨だった昨夏は、全国の27水系35河川で渇水調整協議会などが開催され、取水制限などの態勢が取られた。
 国土交通省によると、気象庁の51観測地点で無降水日(日降水量1ミリ未満で降水の見られない日)の日数が1900年は240日程度だったが、2020年には250日程度に増加。仮に気温が2度上昇すると無降水日が約2・6日(全国平均)、4度上昇すると約8・2日増加するという試算もある。渇水被害は単に水不足にとどまらず、食糧やエネルギー、安全保障を脅かす地球規模の複合的危機となる可能性がある。
 日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)水循環委員会は昨年10月、気候変動によって起こる洪水・渇水の被害を最小限に抑えるため「気候変動に向けたダム群ポテンシャルの最大活用」と題する提言をまとめた。ダムが持つ水をため、調整する機能を流域ダム群全体で調整し、「全体最適」のダム運用を行うことで、治水・利水容量の再編を提案している。さらに既存ダムを活用した水力発電の必要性も訴えている。
 ダムはこれまで、環境破壊などのイメージが先行し、無駄な公共事業の象徴のように扱われてきた。だが、そのダムが異常気象による洪水被害を未然に防ぎ、蛇口をひねれば水が出るという当たり前の生活を支えている。今こそ、ダムが持つさまざまなポテンシャルを見直す時期にきている。
 (本紙・坂川博志)
 この連載はJAPIC水循環委員会メンバーと電力関係の有識者、本紙で共同執筆します。

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