クローズアップ/TRASS代表取締役・越智健心さん/橋梁点検の“内業”を変える

2026年5月20日 人事・動静 [10面]

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 ◇23歳起業家が挑むインフラ維持DX
 老朽化が進むインフラと技術者不足の中、維持管理の効率化に挑むのが建設テック「TRASS」(大阪府東大阪市)の越智健心代表取締役だ。近畿大学在学中の2025年6月に起業した23歳で、今春に卒業したばかり。橋梁点検の内業DXに特化したクラウドサービスを展開している。
 建設会社を営む家庭に育ち、高校時代は甲子園を目指して野球に打ち込んだ。野球を続けたい思いはあったが、コロナ禍で大会は中止に。将来を見つめ直す中で、幼少期から抱いていた「社長になりたい」という思いが改めて強くなった。
 起業支援が盛んな近畿大学へ進学後は異分野のベンチャー事業も経験。一方で、家業を通じて建設産業が新設中心から維持管理へとシフトしていく現実を知る。「これから必要なのは、造ることより守ることではないか」。そうした問題意識が、インフラメンテナンス分野へ関心を向けるきっかけになった。
 現場を知るため、建設ソフト会社でのインターンや鉄道保全工事の夜間作業を経験した。橋梁点検では損傷状況や写真を紙の野帳に記録し、事務所でCADや台帳へ再入力する作業が続く。発注者ごとの様式対応や確認作業も大変で、内業に多くの時間が費やされる現実に驚いた。「問題は作業ではない。情報処理の仕組みにある」。その気付きが起業の原点となった。
 そこから生まれたのが、AIを活用して橋梁点検の内業を効率化するクラウドサービス「TRASS」だ。現場で入力した点検情報や写真を一元管理し、損傷図や調書を自動生成。図面への直接書き込みにも対応し、転記や清書を不要にする。
 「現場で使われないサービスは意味がない」。実務適合を最優先し、まずは点検業者向けに展開する。国土交通省や自治体でのトライアルでは、内勤作業を最大70%削減した事例もある。現在は約150社の引き合いがあり、導入拡大を進めている。
 今後はトンネルなどへの展開に加え、発注者向け台帳システムや補修計画支援機能の開発も進め、維持管理の意思決定を支える仕組みづくりを目指す。将来は海外展開も見据える。
 理念は「安全と安心が当たり前の生活を守る」こと。土木については「目立たないことに意味がある。事故が起きず、注目されないことこそ本質的な価値だ」と語る。「誰かが変えるのを待つのではなく、自ら変える側に立ちたい」。現場で感じた違和感を原点に、越智氏はインフラ維持管理の新たな形を模索している。