BIMの課題と可能性・63/樋口一希/藤岡郁建築設計事務所のBIM運用・2

2015年4月30日 トップニュース

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 独立系の小規模設計事務所の『仕事を創るBIM』について実例を通して現況を報告する。キーワードは「施主の思い=不安や期待へフロントローディングするBIM」だ。


 □Google Earthの空撮地図データと3次元モデルを融合して隣接建物との関わりをプレゼン□


 都内に建つRC造3階建ての住宅「桜の木の家」。法規制をクリアしながら、隣接建物の影響を最小限にとどめ、施主のニーズをいかに具現化するのか。施主の思いは「不安=日当たりが確保できないのでは」「期待=エントランスの桜の木を残したい」にあった。

 連載22回で片山ストラテックの鉄骨BIMソフト「KAPシステム」とGoogle Earthとのシステム連携を報告したが、本案件では、Google Earthから建設予定地の空撮地図データを取得し、プレゼンテーションに援用している。

 ヘリによる空撮や最近、話題のドローン(無人飛行機)を飛ばすことなく、デジタル化した敷地情報が入手できる。後は隣接建物を含む敷地形状をBIM上に展開し、設計対象建物を配置、設計+モデリングしていく。

 隣接建物の影響を最小化するため天窓を設け、リビング内の採光を確保、桜の木への施主の思い入れをトレースし、玄関までのルートも視認できるようにした。施主の不安を解消し、期待を具現化する提案=『仕事を創る』BIMの面目躍如だ。

 「BIMがなければ、契約できるか不確実な段階で、ここまでプレゼンはできない。3次元モデルから生成する各種設計図書の作図時間も想定できるので、協力事務所や施工会社を含めた全体の作業配分も計画できる。施主の思いにフロントローディングするBIMは建築の側にも実利を与えてくれる」(藤岡郁建築設計事務所代表・藤岡郁氏)


 □緊急要請を受けて保存していたBIMモデルを基に再設計して想定外の大規模修繕に対応□


 海を望む景勝地に建つ鉄骨造3階建ての住宅。竣工後、それほど年月も経過していない。自然災害で1階部分が浸水、想定外の大掛かりな修繕となり、保存していたBIMモデルが威力を発揮した。

 躯体部分は保存利用できるとの被害調査を基に、BIMモデルの側でも躯体は温存し、それ以外のデータを削除、新たな内装仕上げを提案、設備機器などの配置から再設計をスタートした。

 2次元CADによる図面(データ)を基に再設計すると仮定してみる。新築時以上に異なる図面(データ)間の整合性確保は困難だし、修繕を前提にレイヤー設定なども行っていなければ、加筆修正に膨大な時間を要するのは想像に難くない。図らずもBIMモデル=デジタルデータの保存性、再現性、可用性の高さを再認識することとなった。

 課題もある。保存期間が法的に明示されている設計図書だが、BIMモデルは「誰が」「どのようにして」「どの期間保存するのか」のルールが未整備だ。本案件では設計事務所側でBIMモデルが保存されていたが、蓋然的ではなく、偶然だったともいえる。BIMモデルが『誰のものであり』『保存責任はどこにあるのか』も未確定だ。本案件のような事例は増えていくに違いない。業界を挙げて早急にルール作りを行うべきだろう。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)