BIMの課題と可能性

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BIMの課題と可能性・66/樋口一希/施主に気づきを与えるBIM・2  [2015年5月21日]

不採用となった初期提案㊤と協議を重ね決定した採用案

 安価に短期間で建設できる倉庫兼食堂の設計を依頼してきた施主。一定期間で建物を廃棄する決定には固執し続けた。BIMの3次元モデルで検討する中で、施主の思いは大きく変化していった。施主に気づきを与えるBIM。「空創房、一級建築士事務所」(京都府宇治市、代表・畝啓氏)でのBIM運用の事例を報告する。


 □一定期間で廃棄する倉庫兼食堂の設計を依頼してきた施主にBIMが新たな気づきを与えた□


 敷地面積は約9000平方メートル、地元に根付く老舗企業の生産および研究拠点。大正半ばから建築関連法規の変更にも対応しながら建設が続けられた。設計対象建物の確認申請を考慮しつつ、現行法規での既存不適格建物は改修するのか、緩和規定が援用できるのかの判断も求められた。

 対象建物は初見で日影規制と高さ制限を回避する必要が判明、BIMの3次元モデルを基に天空率計算で課題をクリアした。対象建物はBIMで詳細に設計+モデリングし、一部、既存不適格もある敷地内の他の建物はワイヤーフレームで配置した。

 恒常的に人手不足の小規模設計事務所。現実面で高い収益の確保が困難な案件だからこそ、BIMを用いて手戻りがないよう施主との合意形成の質を高め、時間短縮を目指す。

 「タブレットPCで3次元モデルを見せながら施主と検討を行った。安価に建設するのが大前提だが、会議室としても使いたいとの新たな要求も踏まえ内装デザインを行い、レンダリング結果を基に、室内をウオークスルーして歩きまわる疑似体験もしてもらった。施主の顔色が変わったのはその時だった」(畝氏)


 □今後の10年間に及ぶ建物の再配置・リノベーションを含めた計画作りへの関与が始まる□


 施主が固執した建物を廃棄するまでの一定期間は約10年間。対象建物も10年間もてば良いので、安価に短期間で建設することを要求していた。BIMで詳細に設計+モデリングした結果が余りにリアルでチープであったため、「なんぼでもこれではあかん」と施主の老舗のプライドに火を付けた。屋根形状をシンプルな陸屋根から片流れ屋根に変更、室内空間はガイドレールに照明器具を設置したスタジオ風のデザインを採用するなど再設計し、再びBIMの3次元モデルで提案した。

 設計段階でのBIMによる3次元モデルは、施主との合意形成の質を高め、時間短縮しつつ『このようにできるを決定する』ためのものだ。本事例では、施主がBIMによる3次元モデルのリアルさに驚嘆し、敷地全体の既存建物の今後にも関心を向けていった。背景には、老舗企業としての生き残り策や事業計画などが介在している。現在、施主との協働の下、今後の10年間に及ぶ敷地内の全ての建物の再配置、リノベーションを含めた計画作りへのアドバイスを求められている。


 □施主と共に成長を続けるBIMの3次元モデルを共通メディアとして各方面との連携も模索□


 『施主に気づきを与えるBIM』運用によって、『できるを決定する』ための3次元モデルは、設計者と施主の共有財、インフラストラクチャーとなる。気づきを与え、成長を続けるBIMによる3次元モデルは、見える化によって施主の安心感を醸成するとともに、設計者としての職能の幅を大きく拡げる。

 2次元CADでの図面主体のプレゼンテーション、協議であれば施主の10年間に及ぶ計画にまで関与することはなかったし、作業面での負担を考慮すれば「中堅の設計事務所に丸投げしていた」(畝氏)かもしれない。

 BIMによる3次元モデルを共通のメディアとして構造・設備分野とのデータ連携も視野に入るし、環境シミュレーションなど設計の高度化にも対応できる。BIMソフトのGLOOBE(福井コンピュータアーキテクト)を導入した組織との横の連携への模索も始まった。BIMは施主へ気づきを与えるだけでなく、小規模な建築設計事務所へ新たな覚醒を促している。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)

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