BIMの課題と可能性・83/樋口一希/積水ハウスの先駆的BIM・2

2015年10月1日 トップニュース

文字サイズ

 積水ハウスが11年から運用を開始した新SIDECS(SIDECS-II)を通して住宅メーカーとしての業態に特化したBIMの「現在」を報告する。


 □営業担当が顧客対応で描く間取り図をBIM工程の起点とする設計のフロントローディング□


 70年代中頃の2次元CADの運用から現在に至るまで積水ハウスが業態に特化したCAD・CGシステムの開発を続ける中でこだわり続けたのが、「間取り図を描きながら要望をとりまとめていく」という営業最前線での顧客対応だ。

 BIMのような3次元システムでは、3次元建物モデルをどのように入力するのかが重要であり、システムごとにさまざまな手法を採用している。積水ハウスでは、工程の最初期の顧客対応時に、営業担当+設計者が間取り図を描くことで、3次元建物モデル入力を意識せずに、「家モデル」が構築できる手法を採用している。究極の設計のフロントローディングであり、このようにして構築された「家モデル」は、SIDECS-IIによって設計から生産、施工、検査・引き渡し、アフター・メンテナンスまで連続的に運用される。


 □一品生産的な『邸別情報』と大量生産に適した『基本部材』データベースで家モデル構築□


 SIDECS-IIは、『邸別情報』と『基本部材』の二つのデータベースから構成されている。工程最初期に入力された間取り図を起点として、当該住宅に固有の情報は『邸別情報』データベースから、各種部材・設備は標準化された『基本部材』データベースから引用され、ひとつの「家モデル」として合算、構築される。一品生産的な『邸別情報』とマス・プロダクションの優位性を担保する『基本部材』の二つに切り分けられたデータベースが、住宅メーカーとしての業態に特化したBIM=HIM(House Information Modeling + House Information Management)を支えている。

 このようにして構築された基本設計段階での「家モデル」は、設計者によって実施設計段階の「家モデル」へと格上げされ、その後の工程へと引き渡される。

 設計者が実施設計段階で使用するのがSIDECS-IIの〔実施設計モード〕だ。「換気計算」「採光計算」などで環境基準を設定するのは勿論のこと、「各種構造計算」「配管CAD」と連携して3次元干渉チェックを行うなど、市販BIMソフトでのIFCファイルによる面倒なモデル連携の必要もない。

 設計者は、『基本部材』データベースと連動した〔廃止部材チェック〕機能を用いて、当該住宅で採用可能な各種部材・設備を再確認できる。『基本部材』データベースの更新は開発部門が行うため設計者は、常に最新の情報を用いて「家モデル」を更新できる。


 □ビジュアル仕様書など情報のデジタル化とコミュニケーションツール活用で設計工数削減□


 積水ハウスでは、SIDECS-IIをベースに他のITシステムも活用する中で、設計工数の最大3割減を実現している。

 顧客ニーズの高い標準部材を明確にし、特注仕様への対応力を高めるなど、『基本部材』データベースの機能強化を進めることで部材・仕様+コストの削減を実現した。見積もり連動を深化することで、本体価格+部材単価表示に至るチェック機能を強化し、ビジュアル仕様書などの電子図書採用でケアレス・ミスを大幅に削減した。

 加えて注目できるのは、相互連携する部署間で最新情報を共有できる通知機能を強化したり、検図時間の短縮や打ち合わせ精度の改善を実現したことだ。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)