BIMのその先を目指して・42/樋口一希/富士山世界遺産センター・1

2018年3月1日 トップニュース

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 世界文化遺産の富士山の自然や歴史、文化などを守り伝えていく拠点として富士宮市に開館した静岡県富士山世界遺産センター。「逆さ富士」を模した逆円すい形の3次元曲面の木格子が印象的だ。富士山麓の湧き水で満たされた水盤に映ると「正富士」に見えるように意図され、水盤内に立つ朱の鳥居は浅間大社の一の鳥居である。発注者である静岡県の思い入れと建築家、坂茂氏が紡いだストーリーの具現化のために、佐藤工業・若杉組などの施工者がBIMなどを用いてどのように協働したのかを概説する。
 ※公式ホームページ:https://mtfuji-whc.jp/

 □3次元曲面のユニークな建物で設計BIMから施工BIMを経て製造BIMに至る技術の射程を伸長□

 公募型プロポーザルでの最優秀者(坂茂建築設計)公表が14年3月、入札不調や地階の採用中止などの設計修正を経て15年12月に全体事業費43億円が決定、再度の入札公告を経て、16年2月に開札、3月には着工されている。県側では外構工事を含めて20カ月要すると想定し、工期内での完成を施工者に要望した。
 超ともいえる短工期と厳密なコスト管理が必須なのに加えて、3次元曲面の木格子の外壁と曲面を多用した内部のらせん状スロープが難工事を予想させた。来館者は1階から5階へと、らせん状のスロープを歩いて行くと、標高に準じて壁面に映し出された富士山の映像などによって疑似的に富士登山を体験できるようになっている。
 佐藤工業など施工者が本件受注でどれほどの経済的利益を得たかは確定できなかったが、明らかなのは、外壁だけでなく、内部空間にも3次元曲面を多用したユニークな建物において「創る」=設計BIMから「建てる」=施工BIMを経て先端的なデジタル・ファブリケーションによる「造るBIM」=製造BIMに至るまで技術の射程を伸ばしたことだ。そのためにはさらなる協働に向けて新たなプレーヤーのプロジェクト参画があった。

 □短工期・厳密なコスト管理とともにソフト間のデータ互換+統合+抽出のためにもBIMソフト援用□

 建物は一品生産だが、それでも多くの場合、壁は垂直に直立し、床は水平に重層している。本件はどちらにも当てはまらない。「絵のような表現」の2次元図面ではデジタル情報を施工につなげるのは困難だ。短工期と厳密なコスト管理のためにもBIMソフト援用は自明だったが、坂茂建築設計=Rhinoceros、佐藤工業=Revit、鉄骨工事業者=AutoCADなど、木格子工事業者=Rhinocerosと使用するソフトウエアが異なるのも課題となった。
 従来は異なるソフト間のデータ互換をIFCファイルで逐次的に行うのが一般的だが、本件では、データ互換+統合に加えて施工BIMからデジタル・ファブリケーションへと伸延長する高い精度でのデータ抽出が必須であった。

 □施工でのBIMマネジメントを担当するコンサルタントとしてシンテグレートがプロジェクトに参画□

 BIM運用を加速化し、課題解決するべく佐藤工業が協働したのは、シンテグレート(Syntegrate、中央区)、ダッソー・システムズ(Dassault Systemes、品川区)、シェルター(山形市)だ。
 シンテグレートは、BIMコンサルタントを標ぼうしており、施工段階でのBIMマネジメントを担当、ダッソー・システムズは、BIMを中心とするデジタル情報のプラットフォーム「3D EXPERIENCE」を提供した。「3D EXPERIENCE」は、前連載第172~175回「ダッソー・システムズと建築」で報告したシンガポールの国土全体を3次元データベース化する「バーチャル・シンガポール(Virtual Singapore)」に採用されている。シェルターは、3次元加工機で木格子の製造と施工を担当した。
 本件には、これまで主に学際的、理論的に俎上(そじょう)に上がることの多かったコンピュテーショナルデザイン、アルゴリズム設計、パラメトリックデザイン、ジオメトリデザインなどが暗喩されており、それらによってリアルなアセットがどのように現出したのかも探る。〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)