BIMの課題と可能性・47/樋口一希/BIMの2014年を振り返る

2014年12月25日 トップニュース [3面]

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 本年のBIMを取り巻く状況を振り返り、新たなテーマを掲げて2015年に向けての総括とする。


 □相次ぐ実利を定量的に証明する情報の公開/試行錯誤から新たなステージへと向かうBIM運用□


 BIMの運用は「できる」から「使える」の段階を迎えたと考えられる。

 事例:清水建設。J-BIM施工図CAD(福井コンピュータアーキテクト)でRC躯体の3次元モデル(データ)を入力し、それを基に2次元の施工図(RC造・躯体図)を作成。複雑な躯体形状でなければ、2次元で施工図を描くのとほぼ同等のコストを実現した。3次元モデル(データ)の優れた可用性は施工現場での数量把握の迅速化、工程管理の高度化を実現し、施工のあり方を変革しつつある。

 事例:鴻池組。BIMソフト「GLOOBE」(福井コンピュータアーキテクト)で構築した3次元モデルから設計者が必要とする各種図面の7割程度が生成可能。残りの3割は設計者が加筆、修正していくが、図面1枚あたり平均すると、最短では30分ほどの作業時間となり、作図業務の大幅な省力化となった。


 □今後は自明となるに違いないBIM援用のメリットに気づいた建築主とのコラボレーション□


 事例:日建設計+竹中工務店。学校法人北里研究所の新大学病院(相模原市)プロジェクト。同病院側から「BIMを採用してほしいとの要望」があったのを確認。BIMソフト「Revit」のオートデスク社のウェブサイトには、さいたま赤十字病院(さいたま市)でのBIM運用に関する情報も掲載されている。「日建設計は、発注者の日本赤十字社に工事の発注条件として、施工時に『3D総合図の作成』を義務づけることを提案した。日本赤十字社は了承し、工事入札の特記仕様書に盛り込んだ」(一部抜粋)。


 □設計事務所・建設会社とソフトベンダーの協力体制構築の背景にあるアジア戦略への対応□


 事例:日建設計+グラフィソフトジャパン。日建設計とBIMソフト「ArchiCAD」のグラフィソフトジャパンが戦略的パートナーシップを締結。国内市場が縮小する中で、建設会社、設計事務所のアジア進出が相次いでいる。BIMでの確認申請を行うシンガポールにとっては、わが国の建設業のBIM化の現況は非関税障壁ともなりかねない。グラフィソフトジャパンは、東南アジア地域において、現地のBIM標準の構築を支援するため、大規模な投資を行っている。日建設計とグラフィソフトジャパンの目指すべき方向性は対アジア戦略で一致した。


 □繰り返される2次元図面の修正作業の軽減+「3次元でデザイン」=設計の質的向上実現□


 事例:サムコンセプトデザイン一級建築士事務所。独立系事務所として徹底追求している「Small BIM」。BIMソフトは「Vectorworks」(エーアンドエー)。小規模な独立系の組織だからこそBIM運用のメリットが発揮される局面もある。行政への対応、施工業者との情報交換などで2次元図面は必要不可欠だ。700平方メートルほどの保育施設の設計。3次元モデルから自動生成した2次元図面は約8割の完成度で、加筆・修正は残りわずかであった。従来であれば、図面作成を外注組織に依頼していたかもしれない。「3次元で考え、デザインする」。BIM本来の機能を最大限に活かすことで、保育園という施設の設計だけではなく、保育そのものの設計に至るまで設計の質的向上が実現した。


 □「建築とコンピュータ」=情報革命は人々と建物・都市との関係をどのように変えるのか□


 『シテイ・オブ・ビット―情報革命は都市・建築をどうかえるか』(1996年、彰国社)の原著「City of Bits:Space, Place, and the Infobahn」。著者は、マサチューセッツ工科大学(MIT)建築・都市計画学部の前学部長で、晩年にはMITメディア・ラボのスマート・シティ研究グループを率いた故ウィリアム・J.ミッチェル教授。「建築とコンピュータ」の今と近未来を俯瞰(ふかん)する時、本書に戻り再読する。立ち返るべき原点とは何か。BIMは建築内部の変革にとどまらず、建築のユーザーである人々へと影響を広げていく。2015年は建築という専門性を内外に向けてより開くべく執筆を続けていく。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)