BIMの課題と可能性・48/樋口一希/日建連の「施工BIMのスタイル」

2015年1月8日 トップニュース

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 関係者間で刊行が待たれていた日本建設業連合会の『施工BIMのスタイル』。副題に「施工段階における元請と専門工事会社の連携手引き」とあるように、建設業の生産拠点である施工現場でのBIM運用に徹底的に的を絞った内容となっている。


 □元請(建設会社)と専門工事会社でBIMを実践している実務者によるリアルな事例が満載□


 建築生産委員会IT推進部会のBIM専門部会が中心となり、「業界標準化を推進することで、施工段階でのBIM(施工BIM)のメリットの増大を図る」という目的の基に編纂されている。BIM運用を実践している実務者が執筆しており、元請(建設会社)と専門工事会社間で試行錯誤されてきたBIMモデル連携のルール作りや成功・失敗事例などがリアルに反映されている。

 00「構成と留意点」、01「施工BIMの考え方」、02「施工BIM成功へのワークフロー」、03「工事別の施工BIM」、04「鉄骨製作図を中心とした製作図BIM」、05「事例」、06「参考資料」からなる目次および細目を俯瞰するだけで、公的組織などから公開されたドキュメントとは決定的に異なり、明確に施工BIMの実務運用を意図しているのがわかる。

 「工事別の施工BIM」では、仮設・解体からRC躯体・鉄骨・設備・防水・外構に至る14工種が網羅されており、全事例をカウントすると109のケースが紹介されている。


 □当初は先行していた専門工事会社のBIM運用とのコラボレーションを元請が積極的に提案□


 従来、元請と専門工事会社との間ではBIM運用に関する目論見、発展度合いにギャップがあった。専門工事会社側では、本稿で報告した東芝エレベータにみられるように、以前から3次元CAD・CAMシステムを独自運用していた。それに対して、設計施工を標榜する元請側が実務面で運用できるBIMソフトの充実は遅れてやってきた。

 本書編纂のワーキンググループの前身のアンケート・ワーキンググループが「専門工事会社におけるBIM活用実態調査」を行い、報告書を上梓したのが12年5月だった。

 専門工事会社が指摘した課題は、「元請はBIMモデルの提供を要求するが、BIMで何をしたいのかが解らない」。当初は、元請が2次元CADデータの提供と同様に捉えていた面が多々あったに違いない。専門工事会社は「施工で使える手引がない」とも指摘していた。主に自社の製造ラインでの3次元モデル作成が前提であり、元請側が必要とするBIMモデルとの整合性の取り方が合意できていなかったためだ。

 幾多の紆余曲折を経て、元請と専門工事会社がBIM連携を前提にBIMモデル=3次元モデルを共有、統合運用する環境が整い、本書の刊行となった。


 □資料「BIM連携計画書」を見ただけでBIM運用の実践的な叡智の結晶なのが理解できる□


 日建連のホームページから購入申し込みができる。申込書でのFAX注文も可能。会員1000円(税別)、非会員3000円(税別)。問い合わせは建築部(電話03・3551・1118)まで。

 購入申し込みのホームページからは、第6章・参考資料:BIMの効果と書式例で紹介されている「BIM連携計画書・BIM実施報告書」「BIMモデルの取扱いに関する覚書(例)」がダウンロードできる。これら資料を閲覧するだけでも、編纂者のBIM連携にかける並々ならぬ本気度が見て取れるし、本書がBIM実践に基づく最先端の叡智の結晶なのが理解できる。

 「施工図事務所の立場でアンケート調査に協力した。BIMソフトの機能向上、64ビットマシンの登場、ネットワークの高速化などで建設会社、他の専門工事会社との間の距離・時間などの制約を意識せず、BIMモデルの運用が日常化した。工程の最後半に位置し、各種施工情報を統合する職能である施工図事務所にとって、本書の刊行は、自らの立ち位置を再認識できるとともに、BIM運用の本格化に立ち会っているとの思いを強くしてくれる」(アートヴィレッヂ代表取締役・原行雄氏)。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)