BIMの課題と可能性・165/樋口一希/小規模工務店のBIM・2

2017年4月13日 トップニュース

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 80年代後半には2次元CAD導入で製図板を廃棄、93年ごろに「小さなBIM」=「ARCHITREND ZERO」(福井コンピュータアーキテクト)の前身を導入した福登建設(福井市花堂北)。BIMによる先駆的な挑戦を「3次元」をテーマとして報告する。


 □BIM状況進展とともに急速に高まった図面などの2次元表現と3次元モデルとの間の親和性□


 小規模組織のBIMによる業務革新は劇的に進んでいる。3次元建物モデルから2次元図面を生成する精度も高まり、作業としての製図は終わった。合意形成から訂正や変更に至るまで3次元で行い、確認申請直前まで図面出力しないケースも多々ある。

 図面と同様、「模型」「CG・パース」「図書(特記仕様書)」なども情報伝達を担うメディアだから、情報が正確かつ迅速に伝われば目的は充足し「次元」は意識外にあった。「次元」に関わる意識が変化したのは、BIM状況の進展とともに、模型の3次元プリンタ出力などにみられるように、メディア自体のデジタル化が進み、3次元モデルとの親和性が高まったからだ。

 一方で、組織間での承認や行政対応などで図面は必要だ。「次元」を巡る現業対応の最大公約数を聞く機会を得た。

 「2Dを(BIMで)3Dに的確に変換できる」「3D(BIM)から2Dへ描き出した内容を理解した上で(図面を読んで)3Dを修正できる」(BIMプランニング代表取締役・小林美砂子氏)


 □建築の側が本来は3次元である建物を無理に2次元に翻訳して「図面」としていただけだ□


 3次元モデルによる「見える化」は、建築の素人である顧客への説明責任を果たすのに有効だ。地域に根付いた建設会社として福登建設は市場に最も近い立ち位置にいる。顧客の関心の今の有り様を検証する。

 顧客の疑問に答え、リアルタイムで問題解決するため、3次元モデルでのプレゼンテーションに本格的に移行したのは「ARCHITREND ZERO」の前身「ARCHITREND 21」導入の96年ごろだ。顧客には2次元表現での図面やパースによる説明は行わないなど打ち合わせ方法も劇的に変化していった。ノートPCを現場に持ち出し、水回り業者などとディスプレイを見ながら現場調整するのも日常となった。

 「小さなBIM」を徹底的に使い込む中で、設計者は、システムや次元を意識することなく、顧客と共に、粘土をこねて形を作り、レゴRブロックを組み立てているような感覚も共有するようになっていった。

 「お客さまは次元など意識しない。建築の側が本来は3次元である建物を無理に2次元に翻訳して『図面』としていただけだ。翻訳過程で大切な情報は間引きされ、専門家でもわかりにくい『図面』が登場する。『小さなBIM』によってお客さまと共に建築の側も本来的な3次元世界を取り戻せる」(福登建設常務・清水榮一氏)


 □現実空間を自由に動き回れるフィジカルな体験から得られる没入感(Immersion)に圧倒される□


 「ARCHITREND ZERO」は、最新版でバーチャル空間体験システム「ARCHITREND VR」を装備した。福登建設では3640×4550mmのVR体験ルームを設け、HTC社製VR「VIVE」を導入、顧客対応を開始した。

 「VIVE」はヘッドセットのみを動かすVRと異なり、最大で対角5mの空間を動き回れるので没入感(Immersion)に圧倒されると評価が高い。

 「お客さまからは、高さや奥行きという広がりだけでなく、生活感まで感じられるし、自宅の建設時に体験できたらよかったと評価を受けた。業界関係者からは、家具、什器などの配置計画に使えるし、仮想ショールームも可能との声が上がった。VRでは脳内に直接、働き掛けてくる感覚が味わえる。擬似的でない、本来の3次元世界への没入感は、建築の設計や施工のあり方を激変させる予感がある」(清水榮一氏)。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週火・木曜日掲載)