BIMのその先を目指して・63/樋口一希/NECの2次元微小変位解析技術

2018年8月2日 トップニュース

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日本電気(NEC)では、二つの衛星レーダーによって変位解析を統合、水平垂直両方向の2次元変位を高精度に解析する「2次元微小変位解析技術」を開発し、老朽化する道路・ビルなどのインフラ構造物の健全性を診断するための検査手法として適用を開始した。

 □都市部の道路・ビルなどの老朽化検査を可能にする衛星レーダーを活用した新技術を開発□

 設計施工段階のBIMモデルとIoT(Internet of Things)を用いて建築物の挙動をリアルタイムで把握する技術が実務運用へと舵(かじ)を切りつつある中で、既存のインフラ構造物の老朽化対策として、危険箇所を事前に検知して事故やトラブルを防ぐ予防保全への要求も高まりをみせている。具体的には、膨大な数の都市部のインフラ構造物の状況を効率的に把握するため、広範囲かつ網羅的に、安価で現況を把握できるスクリーニング検査の実施が望まれていた。
 衛星レーダーによる微小変位解析技術がスクリーニング技術として実用化されているものの、都市部のように高さの異なるインフラ構造物が複雑に立ち並ぶ状況下では、高精度な計測ができず、2次元解析結果に大きな誤差が発生するという問題があった。「2次元微小変位解析技術」は、独自開発の反射点クラスタリング技術(※)によって都市部においても数ミリ単位という高精度な変位解析を実現し、詳細検査に進むべきか判断するための1次検査として非常に有効な手段となる。
 ※反射点クラスタリング技術=レーダーの反射点をその性質によって分類してまとめる技術。反射点が存在する場所の種類(土地利用状況など)を推定するために用いる。

 □構造物ごとの変位解析を可能にする反射点クラスタリングが2次元微小変位解析技術の特長□

 内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP=Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program)においても衛星レーダーによる微小変位解析技術が有望とされ、実用化が進められているが、構造物に当てたレーダーの反射点がビルなどの密集した場所ではどのインフラ構造物のものか判別しづらく、都市部での適用が困難という課題があった。
 「2次元微小変位解析技術」では同一の構造物に属するレーダー反射点をクラスタリングすることによって構造物ごとの水平垂直両方向の2次元変位解析を可能にする新しい手法を採用している。新手法では、構造物を剛体(コンクリートの塊など)の集合体と見なし、反射点の変化の類似度と位置に基づいて反射点をクラスタリングすることにより、抽出された反射点を剛体ごとに分離・判別することが可能となった。剛体ごとに分離・判別された反射点クラスタの形を利用すれば地図情報と照合ができるので、実際の構造物との対応付けが可能となり、異なる方向から観測した反射点解析結果の対応付けも正しく行える。

 □変位解析の精度の向上がスクリーニングの信頼度を高め検査技術の導入判断を容易にする□

 都市部埋め立て地の2次元解析において従来手法で反射点を無理に対応付けた場合には、一部の反射点が周囲と異なる上昇方向に変位しているように見えるため詳細検査をするか検討作業が必要となる。新手法では正しい対応付けにより解析の精度が向上した結果、全体が均一に沈下し、異常な変位がないことが分かり、詳細検査は不要と容易に判断できる。
 このように「2次元微小変位解析技術」による変位解析の精度向上は、スクリーニングの信頼度を高め、IoT、ロボット技術、レーザー計測技術などに基づく詳細な検査技術の導入判断を無駄なく行うことができるなど、老朽化する都市インフラの予防保全の効率化に大きく貢献する。
 NECでは「2次元微小変位解析技術」をインフラの老朽化診断だけでなく、工事による地盤沈下の監視、大規模プラントの監視などの領域の変位解析に応用するため実証・実用化を進めている。
  〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)