BIMのその先を目指して・74/樋口一希/スターツのAI建築事業計画サービス

2018年11月1日 トップニュース

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 スターツコーポレーションとスターツCAMは、10月26日に開催のArchiFuture2018の講演「建物のデータは、無限の資源になる-BIMとAIとECと-」において「BIM-FM PLATFORM」における各種ソリューション開発を加速化させていることを、多くはBIM運用に携わる来場者に直接、明らかにして衝撃を与えた。講演はスターツのデジタル運用を主導する関戸博高氏(取締役会長)とプロジェクトリーダーの光田祐介氏(新規事業開発室)に建築家の山梨知彦氏(日建設計常務執行役員設計部門副統括)が質問し、スターツのデジタル運用を探索するスタイルで行われた。

 □AI活用で賃貸住宅の建築計画と事業計画の作業時間を1週間から約15分へと劇的に短縮□

 「建物はすべて、データになる」とのコピーとともに、「スターツコーポのBIM戦略」と題して前連載第156~158回でスターツの「BIM-FM PLATFORM」に関して報告したのは17年3月だ。その後の約1年半という短期間で驚異的ともいえる成果を上げ、合わせて「建物のデータは、無限の資源になる」との次なるコピーの下、ビッグデータ+AI活用など新たな技術的地平へと到達した。
 5月から運用開始のAIを活用して賃貸住宅の建築計画と事業計画を短時間に、容易に作成できる「AI建築事業計画サービス」では、従来まで1週間ほどかかった作業時間を約15分にまで短縮した。オーナーと協働するデベロッパーとして設計・施工を一貫して担うスターツが「建物のデータを無限の資産=ビッグデータ化」してAI技術によって運用し実現したサービスだ。作業の容易さの水準は「建築士は不要となった」(関戸氏)にまで達しており、実務運用上は「宅建資格者による運用」(光田氏)を目途としたものとなっている。

 □建築見積もりの自動化により作業時間を1/40に短縮するなどの実効果でBIMデータの作成数は15倍□

 BIMソフト「GLOOBE」を中核として運用する企画・実施・詳細設計フェーズで特筆できるのは、「INTEGRAL-BIM」システムによる建築見積もりの自動化で作業時間を通常の1/40に短縮したことだ。賃貸住宅の建築計画と事業計画を「建築士は不要で宅建資格者での運用」で可能にしたエビデンスは明確となっている。
 施工計画のフェーズでは、工程=経過を時間軸として内包した「4D計画」も実施している。山梨氏が「そこまでBIM化する必要があるのか」と質問し、来場者からの関心も集めたのは一本一本まで表現する「鉄筋BIMモデル」の作成だ。「現場作業での困難さを事前に解消できるので施工時間短縮に貢献」(光田氏)と実利は明らかだとした。既存建物を点群データ化してBIM-FMモデルへと援用する「FM(維持管理)活用コンサルティング」も提供している。
 14年度の本格的なBIM運用から、17年度までの実施設計から施工計画に至るBIMデータ作成数は15倍となっており、17年度のRC造、S造の全着工件数の内、プロジェクト単位でのBIM利用率は89%にまで到達している。

 □BIM確認申請の実現を経て次に目指すはBIMデータから受発注を行うe-commerceの構築□

 連載第69回「BIMによる建築確認申請を巡る動向」で報告した確認審査機関の日本ERIと協働してスターツCAMは、福井コンピュータアーキテクトとBIMソフト「GLOOBE」のユーザー会であるJ-BIM研究会の確認申請分科会の活動と連携してBIMによる建築確認申請を実施、1号建築物(特殊建築物・共同住宅)での建築確認済証を取得済みとなっている。
 「建物の情報コンビナートをつくりあげる」とのコピーとともに、講演題目の「ECと」にあるように、直近のトピックとしてスターツが公表したのがBIMデータから受発注を行うe-commerceの構築だ。目指すのは、設計・見積もり・受発注の同時進行によるスピーディーな取引だ。
 「建築士が不要」は決して建築の自己否定ではなく、BIMでの技術革新による新たな建築の自己肯定だと捉えてみる。スターツの動きからは目が離せない。
 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)