BIMのその先を目指して・76/樋口一希/コンピュテーショナルデザインの現在

2018年11月15日 トップニュース

文字サイズ

 BIMによる建築生産イノベーションに関する特別研究会(幹事・東大生研野城研究室)主催の「つなぐBIM」シンポジウム。「BIM Player」(建築情報をつなぐために必要な役割)として登壇したAlgorithm Design Lab.(アルゴリズムデザインラボ)代表取締役の重村珠穂氏の活動を通してBIMの新潮流、次のBIMとしてのコンピュテーショナルデザインの現在を俯瞰する。

 □ゼネコンの現場経験を経てBIMや環境シミュレーションの研究に従事するため渡米して学ぶ□

 「建築情報をつなぐために必要な役割」として紹介された重村氏。キャリアをたどると建築の内部と外部をデジタルによってつなぐ「BIM Player」としての役割とともに、建築とコンピュータの中間領域を接続する新しい職能としての立ち位置に至る道筋が見えてくる。
 慶応大学在学中に阪神・淡路大震災が起こり、ボランティアとしてインターネットを利用して支援活動にあたった経験から、事前防災としての都市計画に興味をもち大学院に入学。修了後は大手ゼネコンに入社し、志願して施工現場に赴任、現場効率化のために作業日報システムや数量拾いのプログラム開発なども行う。建築を学び直したいと考えMIT(マサチューセッツ工科大学)へ留学、現在の立ち位置へとつながる制御系プログラムや環境シミュレーションなどの開発環境に触れる。
 帰国後は著名な建築家の事務所で英語が堪能なことからニューヨークの超高層ビルのプロジェクトに参加する。
 「3次元設計やシミュレーションも使わずに2次元での設計であったが優れた建築家の設計行為を身近に見られたのが収穫だった」(重村氏)
 契約終了後、ハーバード大学大学院建築学科で、本格的にBIMや環境シミュレーションなどの研究に従事する。

 □環境を読み取り建物を設計+建築と製造をつなぐためのコンピュテーショナルデザイン追求□

 ハーバード大学に入学した当時、「Rhinoceros」のようなツールを積極的に援用する意識も高まっており、援用範囲は複雑なファサードなどを創るデザイン・シミュレーションの領域にとどまらず、居住環境の情報を読み取って、どのような建築を設計するのかという環境シミュレーション、建築と製造をどのようにつなぐのかとの課題解決を目指すデジタル・ファブリケーションへと拡張していた。DIVAという環境シミュレーションツールの開発が始まり教育・普及活動を行っている。
 デジタル・ファブリケーションでは、レーザーカッターや3次元プリンターなどのコンピュータと接続されたデジタル工作機械によって「Rhinoceros」などのデジタルデータを木材、アクリルなどのさまざまな素材から切り出し、成形する。
 ハーバード大学では必要なソフトはネットワークを介して学生に無償で提供され、学生はパソコンさえ用意すればツールが利用できる。30台の3次元プリンターと10台のレーザーカッターをはじめとして制作活動を支援する環境が整っており、デジタル環境での「創る」「シミュレーション」が即座にリアルなファブリケーションへと展開できる。
 修士課程修了後、13年には大手ゼネコンでBIM支援業務に従事、14年からは早稲田大学非常勤講師としてデジタル環境シミュレーションを用いた設計手法の授業を担当。15年には東京大学学術支援専門職員としてビッグデータを用いた都市デザイン研究プロジェクトに参加。12年、Algorithm Design Lab.を設立、現在に至る。
 「現在、大手ゼネコン設計部で設計初期のBIMのインフォメーションが少ないBM(Building Model)の段階からモデル形状の検討や方向性の決定のためにコンピュテーションデザインを利用した設計の教育支援を3年計画で務めている」(重村氏)。
 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)