BIMのその先を目指して・94/樋口一希/前田建設のBIM運用・下

2019年4月25日 トップニュース

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 前田建設が大規模木造用ロボット加工機で実現した木造新生産システムの実際を体験するため技術研究所「ICI(Incubation Cultivation Innovation)ラボ」(茨城県取手市)を訪問した。

 □「脱請負」「事業する建設会社」を目指すオープンイノベーションの拠点としてのICIラボ□

 関東鉄道常総線の寺原駅を降りるとすぐに南口改札から見える「ICIラボ」。技術交流を促す「エクスチェンジ棟」、研究者の開放と集中のための「ネスト棟」、最新鋭の実験装置などを装備した「ガレージ(実験棟)」(2棟)で構成されている。隣には今秋、研修施設として生まれ変わる廃校となった小学校の校舎の改修工事現場が見えた。
 1919年創業の前田建設は2019年に100年企業となった。「脱請負」を旗印として掲げ、公共インフラの運営権を取得するコンセッション事業、再生可能エネルギー発電事業などに取り組んでいる。スタートアップ企業のオフィスのような開放感あふれる「ICIラボ」。「エンジニアリングの向上」への変革を目指し、オープンイノベーションの拠点として胎動を始めた。

 □大規模木造用ロボット加工機による木造新生産システムを援用して完成した「ネスト棟」□

 「ネスト棟」は、トラス梁構造などを採用することで延べ床面積約700平方メートルの無柱空間を実現している。室内は「Brain Spa iC!」のコンセプトに基づくユニークな名称の四つのエリアから構成されている。
 ソロワークエリアは、自席を離れ、普段とは異なる環境で集中して作業するためのスペースで、オープンタイプ、クローズタイプ、こもりタイプがあり、集中に疲れたら仮眠できる空間も用意されている。
 カフェエリア/エクササイズエリアは、中央にカフェコーナーを持つオープンパントリーが設けられており、グループでのアイデアラッシュや来客対応に使えるスペースだ。
 ゲストエリアに入ると突然、恐竜の全身骨格模型が現れる。福井の恐竜博物館に現存するフクイラプトルの骨格模型を博物館協力の下、3次元スキャンをし、第2世代の最新多軸加工機で木材から削り出したものだ。

 □設計データ(デジタル)を製造現場(リアル)に拡張するデジタル・ファブリケーション□

 「ネスト棟」に滞在していると、木の香りとぬくもりに包まれてリラックスできる。視線に飛び込んでくる曲線のフォルムが優しく心地よい。可塑性、加工性に優れる木材の特性をロボット加工機によって最大限に生かして実現した「ネスト棟」。「BIMと木」の親和性の真骨頂発揮である。
 BIMによる3次元モデルとロボット加工機のコラボレーションはさまざまな可能性を想起させる。仕口をデータベース化すれば誰もが高度な木材加工を利用できるし、宮大工が伝承する雲形定規をデジタル化すれば伝統建築の保存、再現にも寄与できる。何よりも重要なのは、建設業として工程最上流の設計データ(デジタル)を最下流の製造現場(リアル)まで自ら手元で拡張する手段=デジタル・ファブリケーションを持ったことだ。
 前田建設では、木の魅力を発信するサイトも運営している。https://kidetatetemiyou.com/
 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)