改正安衛法令施行から1年・上/フルハーネス導入効果じわり/供給体制に課題も

2020年3月12日 トップニュース

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 高所作業を伴う建設現場などでフルハーネス型墜落制止用器具(安全帯)の着用を原則化する改正労働安全衛生法令が施行されてから1年が経過した。フルハーネスは建設業の死亡災害の原因で最も多い墜落・転落を防ぐ決め手の一つとされ、2022年年頭の移行期限を前にゼネコンや職人の間で導入が広がりつつある。一定の導入効果が見られる一方で、従来の胴ベルト型でも言われているように、使用者の体をつる起点にフックを掛けずに起きた事故は後を絶たない。器具の性能だけでなく、使用者の意識改革が災害防止の課題となっている。(編集部・労働災害対策取材班)

 19年2月に施行された改正法令では高さ2メートル以上の場所で作業床や手すりなどを設けるのが難しい場合、墜落制止用器具の着用を規定。墜落制止用器具はフルハーネス型を原則とし、高さ6・75メートル以上の場所で着用を義務付けた。墜落・転落死亡災害が全産業で最も多い建設業には、高さ5メートル以上の作業でフルハーネス型の着用を推奨。これらの基準値より低い場所での作業は胴ベルト型も着用できる。経過措置として従来規格の安全帯は22年1月1日まで着用を認め、同1月2日から全面禁止する。

 19年の建設業の死亡災害は、2月速報値で261人と前年同期比で42人少なく大きく減少した。中でも墜落・転落災害が26人減り、減少の半数を占めている。厚生労働省の担当者は「他業種と比べても高止まりを続けていたが、19年は減少傾向になっている。さまざまな要因はあると思うが、その一つとしてフルハーネス義務化が効果を上げている」と手応えを話す。

 フルハーネスへの切り替えは、建設業だけの問題ではない。製造業や電気業、造船業でも使われる。製造業では一回で1万本単位の注文になるケースもあり、国内の主要なフルハーネスメーカーはその対応だけで目いっぱいの状況だ。事実、あるゼネコンでは昨年5月にまとまった注文をしたところ、今年の初めにようやく納入されたという。

 あるフルハーネスメーカーの担当者は「フル生産が続いている。物によっては待ってもらっている」と現状を説明。人気製品の生産ラインを増設するなどして急増する需要に対応している。19年のフルハーネスの受注が金額ベースで前年比5倍超に達した社もある。「作業性と安全性を両立させ、着用しても動きやすい製品を出していきたい」と新開発に力を注ぐメーカーもある。

 社員向けのフルハーネスをそろえ、4月から一斉に現場で着用するゼネコンがある一方で、フルハーネスが必要となる職人すべてに行き渡るまでにはまだ時間がかかりそうだ。供給状況を踏まえ、あるゼネコンの安全担当者は「フルハーネスを現場入場の条件とはしていないが、来年度以降どうするかはこれから決める」と話す。「今年中にどの程度買ってくれるかが課題だ。来年一斉に買おうと思ったら、(移行期限に)絶対間に合わない」(業界関係者)との指摘もある。