改正安衛法令施行から1年・下/安全帯「着用」から「正しく使用」へ/意識改革が重要

2020年3月13日 トップニュース

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 フルハーネス型の安全帯は肩や胸、腰、ももなどをベルトで保持するため、仮に落下した場合でも身体の負担が小さくて済む。ただ落下距離が長くなるため、地面に到達する恐れのある2~5メートルの低所作業では、胴ベルト型の安全帯の方がより安全な場合がある。

 建設労務安全研究会(労研)は胴ベルト型とフルハーネス型の安全帯の活用指針を2019年1月にまとめた。作業分野別・高さ別の推奨基準を示した。労研の幹部は「使い分けの認識は広まってきた」としつつも、「ハーネスさえすれば墜落災害がなくなるという誤解がある」と指摘。「装着しただけでは意味がない」として、正しい使用を呼び掛ける。

 改正法令では高さ2メートル以上、作業床を設けることが困難な場所でフルハーネスを着用して作業する場合、特別教育の受講が義務付けられた。建設業労働災害防止協会(建災防)によると、支部による特別教育は先月までに3038回、受講者は14万人を超えた。現場で働く外国人労働者の増加に対応し、ベトナム人の作業員を対象とした特別教育も試行している。

 従来規格の製品の販売と使用を認める経過措置が22年1月に終了する。厚生労働省は昨年、安全帯の買い替え費補助制度を創設した。対象は中小企業者に該当する法人と個人、労災保険に特別加入している個人事業者で、1本当たり1万2500円を助成する。

 事務作業を代行する建災防によると、交付済み件数は約1560件、補助対象本数は約2万0200本。建設業が9割、従業員数は1~9人の小規模事業所が全体の29%を占めている。中小企業や一人親方などでフルハーネス買い替えに向けた需要増は続いており、厚労省は20年度予算案で同制度に対して前年度比75・6%増の7・2億円の事業費を追加計上した。

 あるゼネコンの社内調査によると、昨年発生した墜落・転落災害の中で、フルハーネスを着用していたケースは1件だった。防音壁の鉄骨作業で8メートルの高さから1・5メートル落ち、鉄骨にぶつかり不休災害となった。同社の安全担当者は「胴ベルト型だったとしても亡くなってはいないだろうが、不休災害が休業災害になった可能性はある」と説明する。安全帯の使用が重大災害の防止につながった一つの例だが、「ハーネスはあくまでツールの一つ。作業に適した作業床の設置や囲い、手すりなどの転落防止措置が原則だ」と力を込める。

 建設業の死亡災害は全体では減少傾向にあるものの、19年の墜落・転落死亡災害は2月速報値で109件と死亡災害全体の42%に及ぶ。屋根や屋上、足場からの墜落災害が大半で、多くは安全帯未使用が原因だ。

 墜落・転落災害の防止が依然として課題となる。厚労省の担当者は「法改正で安全帯の重要性への認識が高まっている今こそ、使用を徹底させる意識改革が重要だ」と強調。「繰り返しの教育とともに、継続した意識付けに取り組まなければならない」と訴える。
 (編集部・労働災害対策取材班=林慶彦、若松宏史、田村彰浩)