JAPICの緊急提言から・6/水害保険制度の充実と普及を

2021年3月25日 トップニュース

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 近年の地球温暖化に伴う気候変動により、過去に経験したことがない規模の自然災害が日本全土に広がっているが、未曽有の自然災害に対する警鐘は今に始まった話ではない。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による第5次報告書(2013~14年)では、もはや「気候システムの温暖化には疑う余地はない」と断言されている。

 日本は、世界でも類を見ないほど自然災害に見舞われやすい環境下にある。18、19年と立て続けに日本全土に甚大な被害をもたらした風水害、土砂災害などは記憶に新しいが、日本損害保険協会の統計によると、両年の風水害等による保険金支払額の合計は2兆円を超えた。

 地球温暖化に伴う気候変動は待ったなしであり、いつ、どこで、気候変動に伴う自然災害が発生するかを正確に把握することは難しい。適時適切な事前予防と災害発生時の的確な災害対応による水害対策、必要な情報の共有によって、被害の大きさを軽減・縮小することができるものの、完全にそのリスクをゼロにすることは困難であり、その不測リスクへの方策が求められる。

 不測のリスクに備える手法の一つとして、損害保険が挙げられる。気象災害に対する日本の損保は1950年代より発売が開始された。その後、多発する自然災害を契機に、火災保険内で自然災害を含めた幅広い補償を求める声に応えながら、損保制度は現在の補償内容へと形作られていった。現在の一般的な損保は台風などの風水害による損害は当然ながら、外水氾濫や内水氾濫といった洪水氾濫や、台風・集中豪雨等に伴う土砂災害による損害も補償の対象となっている。

 時代の流れとともに、保険制度も変化を遂げてきたが、今後も地球温暖化を背景としたさらなる気象変動は想像に難くない。そのため、事前の備えとしての水害保険制度の内容の充実と制度普及は欠かせない。その際、治水の整備水準の向上が水害保険制度の安定的運営に直結しているため、地域の住民や企業が保険加入によりリスク回避をするためには治水安全度の向上と確保が必要であることに留意しなければならない。危険な状態になる前に浸水や洪水氾濫のない安全な場所に避難するためのハード・ソフト対策の充実も求められる。

 国外に目を移すと、米国では洪水による損害が甚大であることから、洪水被害は連邦政府が運営する連邦洪水保険制度により補償されている。保険料は洪水リスクに応じた設定としていることに加え、加入自治体に対して氾濫対策を義務付け、自治体の対策努力によって保険料が変動する工夫を行うことで、強いインセンティブを与えている。

 日本では水害リスクに対する保険は、個人や企業が加入する水害保険(水害リスクを補償する場合は火災保険加入が必要)に限定されている。最近では国内の保険会社でもハザードマップを活用した保険料設定の事例も出てきており、地域住民や企業の被災リスクへの対策が進むことが期待されている。

 個人や企業が自助努力として、自己資産の保全のために水害保険への加入を検討することは必要であるが、今後も激甚化が想定される環境下では行政によるハード面での水害対策に加え、水害保険制度の普及に向けて被災リスクを地域住民に周知すべく、啓発活動を行うなど、一層の支援が必要であることは間違いない。