風をつかむ-識者の視点・6/JERA執行役員事業開発本部副本部長・矢島聡氏

2021年7月6日 トップニュース

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 ◇総力戦で挑み産業つくる
 東京電力と中部電力の資産や人材を引き継ぐ国内最大の発電会社JERA。機動的でクリーンな液化天然ガス(LNG)火力と、発電出力が不安定な再生可能エネルギーを相互補完し脱炭素社会の実現をリードする。再エネ開発事業の柱に据える洋上風力発電を担当する、矢島聡執行役員事業開発本部副本部長兼再生可能エネルギー開発部長は「ビジネスモデルを構築し産業をつくる」と力を込める。
 --洋上風力発電の開発を進めている。
 「日本にはエネルギーを生み出す“風”というリソースがある。それを生かそうと取り組んでいくのは電力会社の使命だ。日本の海に巨大な構造物を築き、20年、30年と運用した実績を誰も持っていない。分からないことが多く非常に難しいが、洋上風力を戦略事業の一つに位置付け、チャレンジしている」
 「火力発電の会社として危機感もある。発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しないゼロエミッションを達成するが、主力電源として大型の再エネが必要となる。洋上風力発電のビジネスモデルをしっかり構築して、アジア地域などに日本モデルを展開していければと考えている」
 --事業化に向けた課題は。
 「人材の育成だ。日本と気象海象条件が類似している台湾で開発、建設、運用の各段階に参画している。異なる事業フェーズの知見を短期間で獲得するとともに、洋上風力のチームを形成していく。台湾の経験を日本に還元させていきたい。事業を通じて日本にサプライチェーンを構築していくことも使命であり、産業をつくらないといけない」
 「沖合で発電した電力をどの需要地に、どう送電するのかも大きな課題だ。再エネは需要に合わせることができない不完全な電気とも言える。発電事業のリスクは事業者が取るが、送電まで含まれると電気料金に跳ね返り、国民負担になってしまう。大掛かりになる送電は発電と違う枠組みとして、国家レベルで考えないといけないと思う」
 --秋田県沖の事業者選定の公募に応札した。
 「電源開発、エクイノール(ノルウェー)との3社でコンソーシアムを組成し、促進区域の中から秋田県沖に絞った。結果はこれからだが、選ばれれば最後まで責任を持って、やり遂げる覚悟だ。海外で経験豊富なプロジェクトマネジャーや火力発電で戦力になっているエンジニアなどを結集して総力戦で取り組む。建設に使うSEP(自己昇降式作業台)船の台数には限りがある。建設会社に選ばれるような魅力的な企業体にならなくてはいけない」
 「今回指定された促進区域を第1ラウンドとすると、これから第2、第3と新たな促進区域で公募が行われる。発電容量や地域バランスなどを踏まえ案件を選別しながら、各ラウンドで1件は受注していきたい。米国やシンガポールで陸上風力、太陽光の案件形成なども進め、再エネ全体で2025年に5ギガワット(現1・2ギガワット)の開発を目指す」。
 (執行役員事業開発本部副本部長兼再生可能エネルギー開発部長)